箱物語(仮)48


いつものチーム・パンドラの箱、
記録追跡課、その待機室。

「ふあー」
カラットがのんびりとあくびをした。
「あれ?ツヅキは?」
カラットがあたりを見渡して、
新人のツヅキがいないことに気がつく。
「トレーニングルーム」
ルカが一言で片付ける。
「まじ?」
「まじなんですよ」
ヤンがコーラを持ってくる。
「あ、ども」
カラットは礼を言うと、コーラの栓を器用に開けて飲みだす。
「現場に出ているだけで、満足しないのかね」
「満足しないんでしょ」
「俺だったら現場に鍛えられてるし」
「ついでに記録の整理もするといいわよ。死にたくなければね」
「へいへーい」
カラットは軽く答えると、自分の過去の箱らしいところから、
記録を電子箱に移す。
頭の中はツヅキのこと。
何でまたトレーニングまでするよ、とか。
忙しいくらい現場にいるんじゃ不満なのか、とか。
いろいろ保障されているのに、それでもトレーニングって何だとか。
「うー…」
カラットは一度にいろいろ考えられない。
もじゃもじゃ考えて、
取り止めがつかなくなる。
ルカとヤンは助けてくれない。
カラットはなかばぷすぷすとなった気分で、
気分はエンストに近くなっていった。

「どうも」
トレーニングを終えたツヅキが戻ってくる。
どうやら着替えたらしく、記録追跡課の濃い灰色のジャケットを、
びしっと着こなしている。
ラフなところは見当たらない。
「おいツヅキ」
カラットが先輩面して呼びかける。
「はい」
「何でトレーニングなんか?」
「縛糸は対近距離の装備ですから」
「確かに近距離だな」
「それで、すばやさと判断力が求められます」
「ふむふむ」
「トレーニングルームにはいろいろな人がいます。片っ端から相手になってもらってます」
「はぁ?」
「人間の基本の動き、記録をダウンロードした動き、武道の動き、さまざまです」
「それを全部?」
「近距離は人間を知ることと思いましたので」
「現場を踏めば否が応でも知るぞ。それでもか?」
「それでもです」
「変なやつ」
カラットはそっぽを向いて、電子箱に向き直る。
「人間を知りたいですね」
ツヅキが席に着きながらつぶやく。
「人間?」
カラットが思わず問い返す。
「人間がどうして箱を生やしていて、どうして箱がらみの犯罪が減らないか」
「警察がらみのことまでは手を出すなよ」
「わかっています、でも」
「でも?」
「過去の箱の感情まで、縛糸で取り出したいと思います。犯罪の、核を」
カラットは思う。
テンションの低い新人が、一番過激なのかもしれない。
人間らしくて、人間が好きで、知りたくて、犯罪が嫌いで。
カラットは席を立つ。
「ココアだったよな」
「はい?」
「甘いもの飲んで、ほっとしとけ」
カラットは器用にホットココアを入れる。

そろそろアイスココアもおいしいかもしれない頃のお話。


続き

前へ


戻る