箱物語(仮)49


待機時間を終え、
ルカは一人で軽自動車を運転していた。
行先は家。
小さな家だけど、底抜けにあたたかい家。

駐車場に停めて、
小さな家の、呼び鈴を鳴らす。
「はーい」
中から声がする。
ルカが一番安心できる声。
ドアが開く。
そこにはタカハが笑っている。
「…ただいま」
「おかえり」
タカハが笑う。
「ほらあがって。もうすぐ晩御飯だよ」
「うん」
ルカは上がりこんで、自分の部屋へと向かう。

部屋でスーツを脱ぎ、
折り目正しくハンガーにかける。
ハムスターケージはない。
ハムスターのダイキは、少し前にルカの仕事中に冷たくなっていた。
ルカは部屋着に着替えて、
庭へと向かった。

小さな庭には、さまざまのものがごちゃごちゃとしている。
大半は夏に伸びた雑草だ。
その一角に、小さなダイキの墓がある。
ルカはしゃがんで手を合わせる。
心の中で謝る。
構ってあげられなくてごめんねとか、
もとおいしいものを食べさせてあげたかったとか、
小さなハムスターのダイキに、
ルカはいくつも謝る。
ルカのそばで黒猫のナオキが鳴いた。
ルカはナオキをなでる。
ナオキは気持ちよさそうに、なでられるままになっていた。

「ルカ?」
台所からタカハが呼んでいる。
「いまいく」
ルカが立ち上がって答える。
「あ、ダイキのところにいたんだ」
「うん」
「だったらこれ、置いてくれるかな」
タカハが台所の窓から何かを投げてよこす。
ルカはとっさに受け取る。
「ホオズキ?」
「うん、お盆過ぎちゃったけどさ。ダイキも戻ってこないかなぁって」
「うらまれるかもしれない」
「そんなことないよ」
タカハは断言する。
「ルカはいい飼い主でした。ダイキもきっとわかってる」
「そうかな」
「そうだよ。さ、晩御飯にしよう」

小さなお墓にホオズキを置いて、
小さな命に、たくさんのごめんなさいとありがとう。


続き

前へ


戻る