箱物語(仮)50


いつものチーム・パンドラの箱、
記録追跡課、その待機室。

ヤンがジャスミン茶を飲んでいる。
カラットが眠っている。
ツヅキがホットココアを飲みながら電子箱に向かっている。
ルカは特に思うこともなく、
自分の中から記録を電子箱に移している。
電子箱の容量は限りがあるが、
結構たくさんの容量を持っているので、当分は心配がないはずだ。
反面、ルカの記録とはこんなに小さなものなのかとも思う。
自分でしかないというものは、
こんなに小さなものなのかと。
小さな記録を積み重ねて、
ようやく自分というものを保っている。
他人の記録と混ぜてしまったら、何もわからなくなってしまうかもしれない。
ルカは不意にそんなことを思い、
少しだけぞっとした。

「どうもー」
待機室に誰かが入ってくる。
ルカは目だけを向ける。
シジュウと、何かの業者らしい人だ。
「誰ですか?」
ヤンがたずねる。
「新しい電子箱業者さんだよ。メンテナンスだそうだ」
「それはそれは」
ルカは癖で箱の目を使ってしまう。
業者とされる男に、なんだかよくわからない過去の箱の感じ。
ルカはうまく説明できない。
箱の犯罪者に近い感じだ。
今までの業者にこんな感じはなかった。
伝えるべきだろうか。
ルカは言いかける。
シジュウがルカに目を向ける。
シジュウはだまってうなずいた。
ルカは言葉を飲み込んだ。

ルカは一時的に箱の目を戻す。
普通のオフィスみたいな待機室に戻る。
それでもなんだか気配がいつもと違う。
業者の過去の箱に気がついたからだろうか。
業者が電子箱にアクセスしたらしい。
ルカの過去の箱まで何かを到達させようとして…
瞬時に削除された。
一瞬だけ業者の反応はあった。
それが跡形もなく削除された。
ルカは業者のほうを見る。
あわてているのがわかる。
「魔術箱のシジュウの前で、ウイルスですか?」
シジュウは笑っている。
「この空間は現在私の手の中です。あなたも…おわかりでしょう?」
シジュウの魔術箱の範囲は広大だ。
業者はそれに気づかずアクセスしてしまったらしい。
「はい、違法電子箱接続その他もろもろで、現行犯です」
業者があわてて逃げ出そうとするが、
シジュウが何かかけたのか、ゆっくり転んだ。
「だめですよ。ちゃんと罪には罰があるものですよ」
シジュウはにっこり笑った。
「それじゃ、この人を連れていきます。皆様ごきげんよう」
シジュウは業者の首根っこを捕まえると、
楽しそうに待機室を去っていった。

待機室の気配が戻る。
どうやら業者の過去の箱ではなく、
シジュウの罠に反応していたらしい。
「罠をかけていたんですね」
ヤンがため息をつく。
「あの業者の過去の箱から、おかしいとは思ってたんだけどね」
ルカが感想を述べる。
「現行犯は罪が重いですよ。パンドラの箱ならなおさら」
ツヅキが述べる。
ルカもうなずく。
シジュウはここをきっかけに、みんな捕まえてしまうつもりなんだろう。
シジュウは怒らせると怖い。
「むにゃむにゃー」
カラットが相変わらず平和そうに寝ている。
ルカは大きくため息をつく。

電子箱すら狙われる。
自分ってことはなんなのかと、ルカは少し思った。


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