箱物語(仮)52


チーム・パンドラの箱、
記録追跡課、その待機室。

ルカはジャスミン茶を入れた。
ホットで熱く。
記録追跡課に、いつも仕事があるわけでもない。
忙しいときはずっと出ずっぱりになるが、
そうでないときは、お湯が足りなくなるくらい暇だ。
茶を入れ、電子箱を見て、
ツヅキあたりはトレーニングをして、
ヤンは本を持ち込んでいる。
カラットは寝ている。
ルカはジャスミン茶のにおいをかぐ。
「うん?」
違和感。ガムのようなにおいがする。
手元をよく見てみる。
ペパーミントティーと書いてある。
ルカはだまる。
誰かが気分転換に持ってきたのかもしれない。
シジュウかヤンか。
とにかくスースーするその茶を一口飲む。
まずくはないが、気分ではないなと思った。

「ルカさん?」
ヤンが声をかける。
分厚い文庫本を持ち込んできたらしい。
大柄のヤンが文庫本を持っていると、
文庫本が必要以上に小さく見える。
「うん?」
「間違って入れましたか」
ヤンは見抜いているらしい。
ルカはため息をつく。
ペパーミントのため息。
「カラット君が持ち込んだらしいですよ」
「カラットが?」
「目覚ましなんだそうです」
「いつも寝てるのにね」
ヤンは苦笑いする。
「暖房も入りましたし、冬が近いんですね」
ヤンが宙を見る。
見えているのかは知らないが、
暖かい空気の波みたいなのが、
ルカにも感じられる気がした。
「記録入れすぎると破裂するわよ」
ルカはヤンに警告する。
ヤンは肩をすくめた。
「それでも本は面白いですよ。ルカさんもどうです?」
「…考えとく」
ルカは自分の席につく。
ヤンは肩を再びすくめ、文庫本に集中した。

記録をためこむことはよくない。
過去の箱が記録で破裂するかもしれない。
面白い本は、それだけの危険を冒すだけのものがあるのだろうか。
ルカは考え、ため息をつく。
気分ではないペパーミントの香りがする。
調子が狂う。
いつものジャスミンの香りが懐かしい。
もったいないと飲んでしまうのは、
ペパーミントにも失礼かもしれない。
捨てるよりはいいかとルカはペパーミントティーを飲む。
目覚ましになるものだろうか。
気分の問題かもしれない。
カラットはそうでなくてもいつも寝ているし、
仕事になれば起きだしてくるし、
要は気分の問題。
ルカがペパーミントに馴染まないのも、
積極的に本を読まないのも、
要は気分の問題かもしれない。

「ただいま戻りました」
ツヅキが戻ってくる。
その声でむにゃむにゃとカラットが起きだす。
カラットが持ち込んだ、
ペパーミントティーが少なくなったと騒ぐまで、あと少しのこと。

外は木枯らしの吹く、
冬まであと少し。
熱いお茶がおいしい季節のお話。


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