箱物語(仮)54


寒い季節。
ルカはいつものように、チームパンドラの箱に出勤する。
泊りがけの仕事というのはないし、
基本的に毎日出勤、
仕事があれば外に行く。
それまでは待機室で待機。
仕事で外を回っているのも多いが、
基本的に違法記録の取締りが多い。
プレートをつけて、一般人にはわからないように記録を回収。
回収された記録は、ヤンの拳箱から、
シジュウの魔術箱へといく。
シジュウはいつもそこから何かを読み取っているらしいが、
ルカにはわからないことだし、
ルカはいつだって現場で飛び回っている。
わからないならそれでいい。

ルカは駐車場に軽自動車を停め、
待機室にいつものようにあがって来る。
中庭の見える部屋だ。
時期が時期ならば桜が見える。

ルカは自分の席につこうとして、立ち止まった。
ルカの席に、花。
死んだことにされている?と、一瞬思ったが、
それにしては豪華だ。
器こそ、ペットボトルだが、
死んだことにされている悪ふざけにしては、
ペットボトルが倒れそうなほど、きれいに生けられていた。

「なにこれ」
ルカはそれだけつぶやく。
まだ誰も出勤してきていない。
ルカは完備されているエアコンの中、
濃い灰色のジャケットを脱ぐ。
無造作に椅子に引っ掛けて、
豪華な花を見る。
なんと言う花だろう。
名前なんてわからないが、
こんないたずらをするのは多分シジュウだ。
他の連中は花という頭がない。
シジュウに、何か考えがあるのかもしれないし、
何も考えていないかもしれない。
椅子に座ってぼんやり眺める。
なんだろうね、これ。
心でつぶやきながら、ルカは花をつつく。
自然と口元が笑みになる気がする。

「そう、それが見たかったんですよ」
不意に声が投げかけられる。
声の主はシジュウ。
ルカははっとする。
シジュウは音もなくルカのそばにいる。
いつの間に。
ルカが思うまもなく、シジュウはにんまりと笑った。
いたずら大成功と書いてありそうな笑顔だ。
「女性は笑うときれいなんですよ」
ルカはきょとんとしてしまう。
シジュウは何を言っているんだろう。
「花は数日持ちますから」
「…うん」
ルカは知らずにうなずいている。
「この寒空の下ですけど、春気分でたまには笑ってください」
シジュウはウインクして見せた。

それだけのためにシジュウはこんなことをしたんだろうか。
ルカは、シジュウは計り知れないと思ったが、
他の連中にどうやったらごまかせるだろうかと、
そんなことを考えていた。

まだ寒い季節の話。


続き

前へ


戻る