箱物語(仮)58


「端末汚染?」
カラットが聞き返す。
「説明すると長くなるわ」
「聞かないとわかんないっすよ」
ルカはうなずく。
「まず、チームパンドラの箱で使われている端末」
「うん」
「あれはさまざまのことをダウンロードできる」
「そうっすね」
「身体能力を上げることができる記録も、ね」
「うんうん」
「そして、一般端末」
「電子箱じゃないんですね」
「ここでは一般の携帯端末に関して」
「ケータイっすか」
「そう、そこに記録を落として、操るケースがあるみたいなの」
「人によっちゃあパニック問題っすね」
「それで、端末汚染って言われてる」
「なるほどなぁ」
「今、ツヅキとヤンが調べているところ」
「でも、一般端末に記録ってそんなに入るんすか?」
ルカは言葉を選ぶ。
「少しだけ狂えばいい、あとは落ちていくわ」
カラットの顔が引き締まる。
「落ちていくって…」
「やつが絡んでいる可能性もあるわね」
「怪盗アーカイブ…すか?」
「しばらく端末汚染のことには警戒して」
「了解」
カラットは席に戻って電子箱の前に座る。
ルカもまた、電子箱で調べにかかる。

携帯端末は確かに進化した。
ルカの銀色の端末までとは行かないが、
何でも送れるようになってきている。
送信受信、悪意まで。

「ルカさん!」
待機室に入ってきたのは、ヤンだ。
「なに?」
「端末汚染の拠点が割れました」
「どこ?」
「それが」
ヤンは言葉を濁す。
「どうしたの?」
「警察署と、国外と、大学です」
「踏み台ね」
ルカは即答する。
「テロ組織の可能性も洗っているところです」
「なるほどね」
「これ、今のところのまとめです」
ヤンが記録媒体を出す。
ルカは電子箱にセットする、
表示されるそれを鋭い目で追う。
「個人のハッキングの線も捨てないでおいて」
「はい」
「違法記録を使えば、結構簡単なことだから」
「端末汚染も?」
「このタイプなら簡単ね。複雑なものじゃないはず」
「わかりました、ツヅキにも伝えておきます」
「よろしくね」
ヤンは待機室を出て行った。

ルカは電子箱を見る。
携帯端末を狙っている違法記録。
確かに取り締まり対象だけれど、
根元から根絶させるのは難しいと思う。
それでも取り締まるのがルカたちの仕事だ。

(怪盗アーカイブ)
ルカの脳裏には、怪盗アーカイブの記録が現れて消える。
やつの可能性。
この事件はテロリストの仕業かもしれないし、
または、一個人の悪ふざけかもしれない。
そいつらもまた、怪盗アーカイブに操られているような、
ルカはそんな気がしてしょうがなかった。

携帯端末汚染の犯人として、
大学生が一人捕まったのは、その数日あとだった。


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