箱物語(仮)63


いつものチーム・パンドラの箱、
記録追跡課、その待機室。
ツヅキはココアを入れていた。
ツヅキは、気分によってココアを変えている。
ヤンあたりは、ある程度わかるようだが、
カラットになると、何でこんなにココアがあるんだよ、
ということらしい。
紅茶をいろいろ変える様なものだと説明したこともあるが、
それすらカラットに通じたかどうか。

今日は本格ココア。
調合されたものとは少し違うはず。
濃い目のココアに沸かしたミルク、
濃厚な味わいが楽しめるはず。
ツヅキは、いつものポーカーフェイスに笑みを浮かべる。

「邪魔するぜ」
後ろから、軽く声がかけられる。
カラットだ。
「なんか特別なのか?」
カラットが冷蔵庫からコーラを取り出しながらたずねる。
ツヅキは不思議そうな顔をして見せた。
「いつもとココアの匂いが違う気がしたんだけどな」
「え、ああ、特別なココアなんです。本格の」
「へぇ…本格かぁ」
カラットはひょいとココアをひったくる。
「本格の味を一口ってな」
いいながら、ココアを一口…
続いて、
「にがっ!」
カラットはそれこそ苦々しい顔になった。

「砂糖がまだなんですよ」
「何、ココアってみんな甘いんじゃねぇの?」
「別になっているのがあるんです」
「めんどくせーの!」
カラットは文句を言いながら、その場を離れようとする。

「カラット先輩」
ツヅキは声をかける。
気がついたそれが、気になるから。
「あん?」
「コーラ、メーカーが違いますね」
カラットの持っているコーラは、
カラットが好む味のものとはちょっと違う。
買出しで間違われたんだろうか。
ツヅキが次の言葉をいう前に、
カラットはにやりと笑った。
「気分で変えてみるってのを、俺もやってみようってな」

カラットはへんてこな鼻歌を歌いながら席に戻っていった。
結構上機嫌らしい。

ツヅキもなんだか、気分がいい。
砂糖を入れて、ツヅキのココアの完成。
何があるわけでもないけれど、
こんな日もある。
ココアだけ特別な、そんな日。


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