箱物語(仮)65
それはまるで迷宮。
シジュウはそう感じた。
連なる記録たちの、
意味を持つのかすらわからない、
立方体の中の悪夢。
これは過去の箱の中の記録。
「ひどいものですね」
シジュウはつぶやく。
シジュウの本体はいつもの席にいるけれども、
いながらにして、この過去の箱を解いている。
さながら迷宮を探索するもの。
シジュウは口元に笑みを浮かべ、
意識を、その過去の箱に集中させた。
たまに出てくるモンスター。
シジュウは自分の過去の箱に収めることで、
少しずつ、迷宮を解体していく。
魔物、罠、そして迷宮自体が、
徐々に解体されていくにつれ、
その中にいたであろう、
恐ろしい魔王のようなものが姿を現す。
魔王はほえる。
「なるほど、この記録を隠すための迷宮…」
魔王はシジュウに襲い掛かる。
そして、
「魔術箱のシジュウを、なめてもらっちゃ困りますね」
シジュウはくすりと笑う。
シジュウの過去の箱は、実質際限がない。
魔王は無力化され、
シジュウの魔術箱に記録として落とされた。
シジュウは軽くため息をついた。
ルカが怪訝な顔をしている。
「お茶もらえますか?」
「いいけど、何かあったの?」
シジュウは微笑む。
「暇つぶしをしていたところです」
ルカはやっぱりよくわからないといった風で、
お茶を入れに席を立った。
シジュウの迷宮はこんなものではない。
世紀の天才と呼ばれたプログラマーの過去の箱なんて、
シジュウにはただの暇つぶしでしかなかった。
何か面白いことはないか。
眼鏡の奥でシジュウが微笑んでいる。