箱物語(仮)66


いつものチーム・パンドラの箱、
記録追跡課、その待機室。

珍しくツヅキがあくびをしている。
ヤンはそれを見て、ちょっとびっくりした。
「疲れですか?」
ヤンはツヅキに声をかける。
「電子箱をいじっていたら、つい、夜更かししました」
ツヅキは正直に言う。
「そうですか」
答えて、ヤンはうなずく。
このまじめなツヅキは、
切り上げるべきところが、まだわからないのかもしれない。
ヤンも昔はそうだった。
際限なく作業と訓練にかかって、
ずいぶん過去の箱を酷使したものだった。

「コーヒーいかがですか?」
ヤンは聞いてみる。
「ルカさんのドリップコーヒーの機材があるんですよ」
「砂糖多めでお願いします、ヤンさん」
「はい」
ヤンはもっさりと立ち上がる。
熊のよう熊のようと、
カラットあたりによく言われるが、
きめ細かい心配りは、
やっぱりヤンならではだ。

待機室のドアが開く。
「あー、つかれた」
ぼやきながらカラット。
そのあとから、ルカ。
「トレーニングってレベルじゃないっすよー」
カラットは席に向かいつつ、ぼやく。
「実戦に出られない分、トレーニングよ」
カラットは席につくと、べたっと突っ伏した。
「俺疲れたー」
カラットはぼやく。
ルカは無視をしていて、ふっと、何かに気がついた顔をする。
「コーヒーね」
「あ、勝手に使わせてもらっています」
「いいわよ」
「じゃ、遠慮なく」
ヤンはコーヒーをドリップする。
滴る琥珀の液体。
甘い苦い香り。

コーヒーはツヅキに。砂糖多めで。
あと、トレーニングから戻ってきた二人には、
スポーツドリンク。
ヤンは何をいただこうか。
こういう世話焼きも、ヤンは楽しい。

仕事が人に言える類のものでなくても。
仕事仲間は大事だなと、ヤンは思う。
それは、かけがえのないものだ。


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