箱物語(仮)67


追跡記録のひとつ、
過去の箱の鍵。
電子箱のネットワークの中などで、
噂になっている代物だ。
ルカたちは、そういった追跡記録を追跡して、
捕獲するためにいる。

過去の箱の鍵は、
過去の箱を開くことができるようになるらしい。
自分のものも、他人のものも。
そして、記録を盗み出せたりするらしい。
そんな噂が流れている。
悪用するならば、これ以上ないほど魅力的な代物だ。

通常、電子箱と過去の箱は、
リンクをさせる必要はない。
そもそも、過去の箱という認識自体が、
一部の人間にあるだけであり、
一般人に、知れ渡っているわけではない。
ルカたち記録追跡課に至っては、
都市伝説のレベルだ。
それでも、電子箱と過去の箱をリンクさせて、
過去の箱の鍵を入れるものがいる。
誰かがばら撒いているのだろうか。
電子箱のネットワークは広大で、
その上、確かなものがない。
過去の箱の鍵は、違法記録だ。
違法だと知りつつ、あるいは、知っているからこそか、
記録を落として、
過去の箱をいじる。
その果てに何があるのかも知らずに。

箱は閉ざされているから箱なのだと。
ルカは思う。
ルカは電子箱に記録を入れている。
記録は大半電子箱にいれて、
ルカの過去の箱には、最低限のものしかない。
記録追跡課のリンク仕様であり、
そうでもしないと、怖いのだ。
いつ過去の箱が限界を迎えるか。
いつ、死んでしまうのか。

ルカは椅子にもたれかかり、
ディスプレイの表示が切り替わるのを見る。
ジャスミンの香りがする。
いつものこと。
でも、ルカの「いつも」は、
大体電子箱の中だ。
繰り返されるけれど、記録されないもの。
バックアップをとられる日常。

いつか、電子箱の中のルカの記録たちが、
何かのきっかけで「ルカ」と言い出すようになったら、
電子箱の記録のほうが、
「ルカ」であると言い出したら。
それはここにいるルカでも止められないかもしれない。
ルカはそこに思い当たり、
軽くため息をついた。

だから知っている人は、記録に頼りたいのかもしれない。
誰かおぼえていて。
ここにいたことを覚えていてと。
違法記録にも手を出すのかもしれない。

過去の箱の鍵。
ルカの電子箱にもコピーらしいものは泳いでいる。
参考にとシジュウが流したものだ。

ルカはまだ、それをつかう気にはなれない。


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