箱物語(仮)71


ルカはゼロ番区を歩く。
先ほど、ミスター・フルフェイスのところにいってきた。
彼の言っていることが、妙に頭に引っかかっている。
いわく、
『君はどこまで君だと思う?』

ゼロ番区はごみごみした町。
通常の区画された町に入れなかったもののたまり場。
ミスター・フルフェイスがここにいるのは、
区画された何かに、入れないからかもしれない。

ルカは空を見上げる。
電線の張り巡らされている空。
どこまでも続くような空は、
こうして下から見ると、ばらばらのようにも見える。
あるいは逆もあるのだろうか。
他人というばらばらのものは、
どこかでつながっているのかもしれない。

縁というものがあるが、
そういうものも含めて、
ルカのルカであるという記録も、共有してしまっているような存在。
いないとも限らない。
ルカは空をじっと見ながら考える。
あるいは。
ルカの電子箱のルカの記録がすべて流れてしまって、
ルカでないルカでいるという可能性。
ミスター・フルフェイスはそういうことを言いたかったのだろうか。
真実はわからない。
わかろうとも思わない。
ただ、ルカは無性にさびしい。
ルカの輪郭がぼやけているように、感じる。
ルカはここまではっきりとルカなんだと、
誰かに証明してもらいたい気もする。
抱きしめてもらって、
ルカとは異なる腕とぬくもりを感じたい。
近いのに異なる存在。

ルカはふっと、何か思いついた。
ああ、だからか、と。

だから人と離れては、人はたぶん生きていけない。
過去の箱はそんな風にできているんだなと、
ルカはなんとなく思った。
箱の目は、それが見えるだけのもの。
異形の存在では、きっとないのだろうと思った。

ルカはタカハに会いたくなった。
心を許せる愛すべき日常。
抱きしめてくれる、ルカでない存在。
それは水を飲むように。
それは呼吸をするように。
大切なものであると、ルカは感じた。

ルカはどこまでルカか。
不安でもあるけれど、生きる限りはルカだ。


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