箱物語(仮)72


ぬるい飲み物すら心地いい。
カラットはペットボトルの飲み物を一気飲みする。
「身体に悪いですよ、その飲み方」
ツヅキが静かに言うが、
カラットはかまわない。

連日ひどい暑さが続く。
蝉の鳴き声が遠くに聞こえるのに、不快。
待機室は空調が整っているのに、
カラットの中では不快で暑い夏が繰り広げられている。
どうしたものだろう。
なんだか爆発しそうな気分だ。

「たまってるのかしら」
いつもの調子でルカがとんでもないことを言った、
…と、カラットが判断するのにしばらく間がある。
「あの、その、おれは!」
何かを否定しようとするカラットを、
ルカは見て、ため息をひとつ。
「生理的なことじゃなくて、鬱憤みたいなもの。何か解消してきたら?」
「鬱憤…」
「この仕事していると、どうしても、整頓できない記録も出てくる」
ルカはいつものように淡々と語る。
「整頓できないと、どうしてもイライラが募るもの」
「…そういうものっすか?」
「そうね、そういうもの」
カラットに疑問が持ち上がる。
「それじゃ、ルカさんはそういうときにどうしているんですか?」
カラットの純粋な質問。
「感情を表に出すか…あるいは、思いっきり爆発するとか」
カラットの目がまん丸になる。
のみならず、ヤンもツヅキもびっくりした顔をする。
「…何か、変かしら?」
「想像つかないっす」
「しなくていいわ、みっともないもの」
ルカが珍しい表情をする。
照れているのかもしれない。

「爆発ということで思い出しましたが」
ツヅキが割り込んでくる。
「花火大会があると聞きます」
「花火大会かぁ…」
カラットはぎぃと椅子を鳴らして、
夜空の花火を思い浮かべる。
腹に花火の音がバクバク鳴り響くのもいいし、
騒がしいところに放り込まれるのもいい。
カラットが祭りの熱気に溶け込んでしまうのもいい。
「一緒にどうですか?カラット先輩」
「まぁいいか、いこうじゃないか」

夏の熱気は祭りの熱気に取って代わる。
問題を変えられたような気がしないでもないが、
祭りは楽しいからいいんだ。

思いっきりはしゃごう。
それこそ、ガキのときみたいに。


続き

前へ


戻る