箱物語(仮)73


記録追跡課、その待機室。
待機室にシジュウが来ることはあまりない。
そのシジュウのあまり使われない席に、
ルカは妙なものを見つけた。

こういうのは、ゆるキャラ…と、言っただろうか。
ゆるキャラらしいぬいぐるみが、ある。
気の抜けたものであるが、なんだか気持ち悪い。
どこのなんだかわからないけれど、
趣味が悪いなとなんとなく思う。
「何これ」
思わずルカはつぶやく。
「どっかのご当地キャラとか言うものらしいっすよ」
カラットが答える。
わりと流行に明るいのかもしれない。
「…この気持ち悪いのが?」
「なんか、それなりに人気なんすって」
「わからないものね」
ルカはため息を一つ。
ゆるキャラがよくわからない笑顔を作っている。

「みなさん、お元気ですか?」
ニコニコといつもより笑顔がさわやかなシジュウが、待機室に入ってくる。
待機室のいつものメンバーを見て、
「べぬべぬ君には、触っていないですか?」
と、ちょっとだけすごむ。
「べぬべぬくん?」
ルカは聞き返す。
ご当地キャラでべぬべぬ?
何だ一体と思う。
「べぬべぬは、このシジュウがつけた名前ですよ」
シジュウは誇らしげに胸を張る。
「なんだか名前があったらしいですけど、べぬべぬの方がそれっぽいでしょ?」
シジュウはにっこり微笑むと、
「べぬべぬ、お留守番ご苦労。さぁ、ちょっとお散歩しようね」
シジュウはうれしそうに、べぬべぬと名づけたぬいぐるみを手にして去っていった。

「べぬべぬ…」
ルカはそれ以上言葉が出てこない。
なんと反応したらいいのだろう。
ぽかんとするより他にしようがない。
あの気持ち悪いぬいぐるみを連れてお散歩だとか、
べぬべぬという名前のセンスだとか、
そもそもなんだかよくわからないご当地キャラらしいものだとか、
突っ込みどころが山ほど。だが、
あの気持ち悪いぬいぐるみに、べぬべぬという名前がわりとあっているのだが、
調子にのられても面白くないので、それは黙っておくことにする。


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