箱物語(仮)74


奇跡ということ。
それはどこから来るんだろうかとルカは思った。

仕事で町に出て、過去の箱を展開して、
違法記録を捕獲した。
ルカたちはいないことにされている存在。
ルカたちの仕事は、ないことになっている。
いても、いない、ルカたち。

でも、今日の過去の箱の持ち主は、
ルカの調べた限り、神様の代理人と名乗っているという。
違法記録を過去の箱に入れただけなのだと、
ルカなら思う。
けれど、あれを神様の代理人であると信じる人たちにとっては、
奇跡なのかもしれないし、
神様の言葉をあずかっていると信じるのかもしれない。

神様から、違法記録を受け取ったとか、そういうごまかしもあるのかもしれない。
その場合は違法じゃなく、
法に合わないけれど必要なものとでもされるのだろうか。
ルカはいまいち理解できない。

神様の代理人。
その過去の箱は、パンパンになっていたことをルカは思う。
かなり大きな過去の箱だったが、
今にもはじけそうになっていた。
こんなになるまで何を入れていたんだろう。
ルカは小さな記録までを見る気はない。
けれど、明らかに普通の過去の箱の何倍もの過去の箱が、
壊れそうになるほどの記録。
違法記録を回収して思う。
神様の代理人というものになるためには、
過去の箱を犠牲にしなければいけなかったのかもしれない。
神様の容量は、過去の箱を壊すほどのものだったのかもしれない。

神様の代理人の、
違法記録はすべて捕獲した。
それでも過去の箱はずいぶん膨れていて、
先は長くないなとルカは思う。

神様の代理人の、奇跡も予言も、違法記録の賜物で、
ルカたちはそれを奪った。
いつもそうしていることだけど、それでよかったんだろうかと、たまに思う。
神様の代理人から、奇跡が消えて、
信じている人たちにとっては、
それは絶望につながるのではないか。
ルカはそう思う。

新しい奇跡が、
できれば、違法記録を伴っていない奇跡が、
あらわれてくれれば、きっと救われる人もいる。
違法なら、ルカたちが捕獲に行ってしまうから。
だから、どうか、誰も傷つけない教えと奇跡がありますように。
奇跡のもとを捕獲し続ける、ルカは思う。


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