箱物語(仮)75


たまにの休暇。
ルカは町に繰り出していた。
タカハが家の掃除をするというので、
ルカはちょっとだけ追い出された形になる。
不快には思っていないが、少しだけさびしい。

ルカは喫茶店の窓際に座り、
町行く人をぼんやりと見ている。
夏の派手な色彩から、
季節は変わって落ち着いた色彩が町を行く。
秋なんだなとルカは思う。

柄にもなくコーヒーを少しすすり、
読みもしないけれどヤンにすすめられた、
文庫本をなんとなく流し読みして、
暑いとも寒いともつかない温度の中、ルカはぼんやりとする。

窓の外で、ずっと立っている少女を、ルカは見つける。
何度も携帯電話を見ている。
おそらく、と、ルカは思う。
何かを待っている。
大切な何か。
約束をした何か。
ルカもそういう経験がある。
不安なその、待つと言う経験を、よく知っている。

時計をルカも見てみる。
何時丁度というには、ずいぶんずれている。
待っている何かが遅れているのか、
あるいは、少女がとても早くに来たのか。

ルカはちょっとだけ想像する。
たとえば待っている相手がどうにかなったらどうしようとか。
祈るような気持ちになっているのではないかと。
どうしようもないことを思い描くのは、
過去の箱にとってもよくない。
けれど、それをしてしまうのは、しようのないことだ。

ルカはコーヒーを一口飲む。
だいぶぬるくなっているそれを。
再び少女に視線をやると、
泣きそうな少女と、頭を下げる少年がともにいた。

よかった。ルカはなんとなくそんなことを思い、
ルカの携帯電話にタカハの呼び出しが入るのを待つ。
待つって、悪くないものだと、ちょっとかみ締めながら。


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