箱物語(仮)78


目指すところはどこか。
ルカはたまに考えようとして、
見失いそうになる。

箱の目という妄想に過ぎないようなものが、
生かせる職場といったら、
このチーム・パンドラの箱が一番適職ではある。
過去の箱を追い、展開し、記録を捕獲する。
過去の箱が見えないとできない仕事だ。
ただ、箱が見えたとして、目指すところはどこだろう。
どこに向かおうとしているのだろう。
気のいい仲間、悪くない上司。
そして、帰る場所もあるルカは、
一体ここからどこに向かおうとしているのだろう。

箱の群れが押し寄せてくる感覚。
見えなければいいのにと呪ったこともある目。
涙になってとけてしまえばいいと、
そんなことも考えたこの眼球。

誰かになりたいわけじゃない。
箱の意味を知りたかったのかもしれない。
誰かと、感覚を共有してみたかったのかもしれない。
ルカと、誰かで、箱のことを少しでも話せたら。
それがルカの始まりだったかもしれない。

始まりがそこなら、目指すところはどこだろうか。
永遠なんて言葉はなかなか信じられないけれど、
ルカは考える。
使い捨てでもいい、この目を使えるのならば、
気力が続く限りこの職場でがんばってみよう。
この目が使えなくなったら、
おとなしく引退しよう。

気のいい仲間のいる、不思議な職場。
今はまだここを引退する気はないけれど、
いつかその日が来たとき、ルカは自分がどういう行動を取るか想像もできない。
泣くだろうか、笑うだろうか。
それとも。
引退を考える前に、戦って命を落とすのだろうか。
いやだなと思う。
タカハのそばで死ねないのは、いやだなと思う。

小さな結論が出る。
とにかく、生きる限り生きること。
それから、タカハのそばで死ぬこと。

ルカである意味は、ほとんど電子箱に記録を入れているけれども、
今のルカを作っているのは、
理屈抜きの感情と、それを肉付けた言葉に過ぎないのかもしれない。
ルカがルカである意味。
ひとつにはそれが愛であるのかもしれない。


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