箱物語(仮)79


カラットは、鏡の前で、すましてみる。
短い髪をわしわしと乱したあと、
違う表情を作ってみる。
どれもカラットなのに、印象はまるで違う。
仕事が今のになってから、
女の子とデートなんてだいぶ数が減ったなと思う。
女の子はいいものだ。
微笑んでくれるだけであたたかい。
カラットの先輩に当たるルカは、
時々ふっと思い出したように女だ。
カラットもそのあたりは気がついているけれども、
先輩を立ててあげなくちゃなというわけで、
気がつかないふりをしている。

たとえば。
カラットがこの仕事に足を踏み入れる、
前と後では。
やっぱり表情の印象も違うものだろうか。
女の子というものはそういうのに敏感な気がする。
デートが減ったのは、その所為もあるかもしれない。
秘密を持っている男の人って素敵といいながら、
あたしに何か隠してるでしょ!と、詰め寄るのだ。
矛盾。
でも、それがカラットにとって、いとおしいものである瞬間がある。
めんどくさい、けれど、その女の子が、
何かに流されそうになっている、
カラットをつなぎとめてくれている気がする。

「あ」
カラットは鏡の前で間抜けな声を上げる。
そうか、ルカさんはそういうことがあるのかな。
だから時々、無防備に女が出てしまうときがあるんだ。
カラットはルカを異性としてみるわけじゃない。
ただ、張り詰めているルカさんがふっと思い出した微笑み。
カラットの見てきた、女の子の微笑みとはちょっと違うけれどあたたかいもの。
ルカも女の子なのかもしれない。
カラットの知らない誰かの前では。

名前も忘れたたくさんの女の子。
いろいろな付き合い方をした。
振られたことも山ほど。
でも、カラットは思う。
女の子の微笑みは、あたたかい。
どんなに年をとっても、女の子は女の子だ。
かわいい側面持ってるんだ。
…などとルカさんにいったら睨まれるからやめておこう。
鏡の中のカラットは苦笑い。
苦笑いも、悪くないなと自画自賛する。


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