箱物語(仮)80


発狂するほどの世界から愛をこめて。

そんなメッセージが捕獲記録と一緒に混じるようになった。
差出人不明のようなメッセージ。
でも、ルカはあえて、
捕獲記録のそのメッセージを消そうとはしない。
発狂するほどの世界。
事実そうじゃないかとルカ自身も思っているからかもしれない。
ルカは否定しない。
そして、誰にも言わないけれど頭の中で付け加える。
狂おしいほど愛おしい世界というのもいいじゃない。と。

ルカは記録を電子箱に移す。
今日も過去の箱を展開して記録を捕獲してきたが、
どいつもこいつも発狂寸前まで急激に記録が増えている。
どうも、災害らしいことがあったらしい。
必要な記録を適当に仕入れたら、
さっさと電子箱に移しているルカだから、
心のダメージは少ないようだけれど、
災害記録による過去の箱の損壊はかなりのもののようだ。
あちこちで過去の箱が傷んでいるのをルカの箱の目は見る。
何かの大災害よりもそっちが見えるんだからしょうがない。
建物が無事でも、記録でずたずたの人、過去の箱が流れていく町並み。
ルカは、こんなこともあるものなんだなと思う。
発狂するほどの世界。
発狂したらどうなってしまうんだろう。
楽になるのだろうか。
ルカは発狂できない。
そうなるようには出来ていない。

発狂するほどの世界から愛をこめて。

メッセージの送り主は誰だろうか。
狂おしいほど愛おしい世界。
ルカは想像してみる。
ルカの想像は、どこかの瓦礫に向かう。
呆然とした人々が、瓦礫の中でポツリポツリと立っている、
災害の現場かもしれない。
発狂したくても出来ない場所だろうか。
ルカの想像の中、瓦礫の中に立つ一人がルカのほうを向く。
誰なのかわかるわけではない。
でも、発狂するほどの世界で、その人は不敵に微笑んだ。
ルカは感じた。
ああ、愛はここにある、と。

ルカは想像をとめる。
世界に愛はある。
どんなところにでも。
そう思うのは、大災害の前に無力だろうか。


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