箱物語(仮)81


落ちる花。
それは笑っているように。

花見と洒落こんでいるわけでない。
ルカは窓の外の桜を見ていた。
待機室から見える桜はいつものように。
何年経っても春になれば花をつけ、
笑いながら落ちていく。
ルカはそんな風に感じた。

何悩んでいるのかしら。

ルカのイメージに声がした気がする。

悩まなくていいのよ。
落ちていけばいいのよ。
ひらひらくるくる、かわいいものになって落ちてしまいなさい。
女だもの、落ちたものが勝ちでしょう。

ルカはなんとなく呼吸をひとつして、
目を閉じ、イメージの花たちと向かい合う。
ルカの記録にあるものとはちょっと違う。
どこから紛れ込んだイメージだろうか。
花の化身の女達が、
ふわふわくるくる落ちていく。
ああ、かわいいなとルカは思う。
笑いながら落ちていける、かわいい女なんだ。
ルカの足元は、小さな足場だけ。
そこから踏み出せれば、ルカはかわいい女になれる。
桜の花のような、かわいい女に落ちていける。

ルカはその一歩が踏み出せない。
イメージの世界の中、ルカは苦笑いする。
「ごめん」
なんだか謝ってしまう。
ルカらしくない。
けれど、かわいい女になれないことを、ルカは謝ってしまう。

無限に落ちていく、
花の化身の女達は笑っている。

いいのよ、いいのよ。
また春になったら呼びにくるわ。
そのときはきっと、一緒に落ちましょう。

「ごめん」
ルカはまた謝る。
きっと落ちることができないルカだから。
怪盗アーカイブの誘いだとわかっているから。
だから落ちることが出来ない。
この過去の箱の中で踊るしか出来ないんだろうなと思う。

「踊りましょう、この記録の中で」
少し懐かしい、感覚。
友人のような、宿敵のような。
遠いような、近いような。
影のような、怪盗アーカイブ。

百花繚乱。
そこから踏み出せないルカは、また、現実に帰る。
怪盗アーカイブが落ちていく記録の中で笑っている。
そう、今は桜の季節だ。
花が落ちていく季節だ。


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