箱物語(仮)84


渦。
不意にルカはそんなことを思った。

外には入道雲。
本格的な夏だ。
入道雲が出来たら、雨が降りやすいんだろう。
入道雲の中は気流がぐるぐる渦巻いている。
乱気流なのかもしれない。
ああ、だから、入道雲見ていて渦だと思ったのかと、
ルカは少しだけ納得する。

ルカは今、車の助手席に座っている。
運転しているのはヤンで、
後部座席に後輩のカラットとツヅキがぐったり寝ている。
暑い暑いと連発して、その果てだ。

「雨降りますかね」
ヤンが視線を前にすえたままでつぶやく。
「知らない」
ルカは窓の外を見たまま答える。
「降ってくれないと、カラットさんがコーラ飲みすぎで糖尿になっちゃいますよ」
「知ったことじゃないわ」
「後輩が使い物にならなくなったら困りますよ」
「それもそうね」
「ルカさん投げやりですね」
「…そうかもね」
ルカはなんとなく認める。
暑くて自暴自棄になる気がする。
ヤンは軽くため息。

入道雲の中で渦巻いているのが、
ざあざあと流れていけばいい。
投げやりになっている気持ちも、全部流れてしまえばいい。
土砂降りになってしまえばいい。
渦巻いているものが、大きな流れになればいい。

ルカの中で時計が壊れたような回転をする、自暴自棄の軽いの。
この渦を土砂降りが流せばいいなと。
ルカはじっと入道雲を見る。
日差しが翳ってくる。
かすかに遠雷。
多分、夕立まであと少し。

夏の夕立は、ワクワクする。
子供の頃は怖かったような気もする。
そんなことを思い出すのは、やっぱり夏だからかもしれない。


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