箱物語(仮)87


世界が大変でないときがあるだろうか。
神経探偵スパークは、ゼロ番区を歩きながら思う。
うちすてられたゼロ番区は、
いつものようにごみごみしていて、
話しかけてくる人物もいなければ、
遠巻きに見ている連中が警戒を解くこともない。
あれは見張っていると言うのかな。
スパークはあまり気にしない。
どこでも結局同じことだ。

ゼロ番区の空は、区切られた空だと誰か言っていた。
終わっている町の、電線で区切られまくった空だと。
そんなものの言い方をするのは誰だろう。
今まで神経を焼ききってきた連中の、
神経をつないでスパークさせた連中の、
どれかが引っかかっているのかもしれないし、
あるいは、神経より電気的な何かが、
どこかにつながっているのかもしれない。

終わっている、かと、スパークは思う。
この町にはスパークの兄弟もいる。
警戒心がものすごく強い住民もいる。
静かに終わっていて欲しいと言うのが、
終わっている、などと評する連中の本音なのだろう。
住んでいる連中は、
終わっていようがなんだろうが、
どこにも行くところがないのだ。
墓場や棺桶のような場所と言うならば、
このゼロ番区は終わっている町なのかもしれない。

空を何かが飛んでいく。
一直線に飛ぶそれは、ゼロ番区の線なんて関係のないように。
飛行機だろうか。
それは、どこまで飛んでいくのだろうか。
今、大変だといわれている国だろうか。
それとも、関係のないリゾートだろうか。
「人生ってなんだろうね」
スパークはつぶやく。
神経焼ききればたいてい廃人だ。
その後のことなんて考えたことはない。
スパーク自身がこれからどうなるかなんて考えたことはない。
ただ、記録の塊として終わるのはいやだなと、少し思った。

生まれ落ちたこの世界に、傷をつけて終わりたい。
終わってないと、生きていると、
生々しい傷を付けたい。

スパークは生きている。
生きている以上、誰かを傷つけるのか。
神経をこれ以上焼ききるのか。
罪悪感は麻痺しているけれど、
モグラのように暮らす兄弟がちょっとうらやましくなった。


続き

前へ


戻る