箱物語(仮)89


つよくて、やさしくて、かっこよくて。
なにより、
だれからもすかれるひとになりたかった。

ルカは、独り言のようなその記録の端っこが、
どうにも気になっている。
記録が端っこでも漏れ出すと言うことは、
どこか、過去の箱に亀裂が入っている可能性が高い。
そして、そういう場合は。
過去の箱に違法記録が入っていて、
記録過多になっていることが、とても多い。

今は仕事ではないけれど、
年末の町を歩いているだけ。
でも、こうして記録を感じたり、
箱の目に切り替えようかと思うあたり、
どうしても仕事から逃れられないと実感する。

12月。
人がせわしく行きかいする。
その中、走る人影。
きらりと光るものが手に。
刃物!
ルカは装備も持っていないけれど、
運動能力は、残っている。
走る。
追いかける。
追いかけながら目を箱の目へ。
パンパンに膨れ上がった過去の箱。
さっきの記録は、あいつからかもしれない。

「俺は正義だ!」
いいながら、刃物を持った男が、刃物を振り回そうとする。
ルカはトップスピードで走り抜けざまに、刃物をすっと奪い、
ルカはまた雑踏に身を隠す。
男が刃物のないことに気がつくのは一瞬あとで、
そのあと、普通に警察に男は捕まっていた。

一番近づいた時に、
亀裂からもれた記録。
強いのは全部正義なんだ。
こんな記録をルカは感じた。
傷つけて力を誇示するのが正義でないと、
ルカは思うのだけど、
最近は変わったのだろうか。

ルカは刃物をぽいと捨てて、
また、せわしい町を歩き出す。
箱の目はとっくに戻してあり、
町のイルミネーションがきれいだった。


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