箱物語(仮)90


全てが記録で出来ているならば。
ヤンは文庫本を閉じて考える。
最初のカミサマの記録はどこから来たのだろう。

考えが過ぎると、過去の箱の記録がもやもやすることもあるらしい。
思考と記録。
それは密接な関係だ。
記録は記録として、電子箱に入力しておいて、
思考の過剰な妨げにならないのがいいらしい。
ルカあたりなんかは、
最低限の記録しか過去の箱に入れていないのに、
判断力や思考の鋭さは、いつもすさまじいものがある。

カミサマ。
ヤンは再びぼんやり考える。
たいていのことは記録で出来ている。
そういう仕事をしているから、ヤンも、また、そうなんだろうなとは思う。
はじまりってどこだろうかと考え出して、
天井をじっと見てみたりする。
ヤンのぼさぼさに長い髪が、少しばかり崩れる。
天に召しますカミサマは、
一体どうして天なんだろうか。
最初のカミサマは、どうしてカミサマになったんだろう。

「ヤン先輩」
声がかけられる。
「ツヅキか。すまない、ぼぅっとしていた」
「ジャスミン茶でしたよね」
いいながら、続きはジャスミン茶を机上に置く。
「ありがとう」
ヤンは礼を言って、ジャスミン茶を口に運ぶ。
「考え事でも?」
ツヅキが問う。
「はじまりってどこからだろうって考えてたよ」
「ふぅむ…それは」
「それは?」
「いつからジャスミン茶を飲んでいるようなことなのでは?」
ヤンはちょっと驚く。
「失礼しました。冗談です」
ツヅキは折り目正しく謝る。
「いや、うん。そういうことだと思うよ」

はじまりがどこだって。
きっとカミサマはジャスミン茶の香りのようにいるものだ。
いつかカミサマは記録に現れて、
知らないうちに居座っている。

今日もジャスミン茶がうまい。


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