箱物語(仮)95


どんよりした梅雨空は、
何かを隠しているように見えて、
そう見えて、
実は、これが真実なのかもしれない。

神経探偵スパークは、
事務所の窓から外を見ていた。
梅雨空。
今にも雨が降りそうな、不安定な天気。
不安定さ。
それは、どんな人間にも言えること。
安定した生き物なんて存在しないと思う。

神経をつないで真実べらべらしゃべらせて焼き切って。
スパークが安定しているなんて、
自分自身も思っていない。
たまに訪れるパンドラの箱の連中だって、
みんななんか不安定さを持っている。
だから彼らは、まだ、人なのだ。
魅力的な生き物なのだ。

真実が快刀乱麻だって誰が言った。
真実なんて、
ぼやけた色彩の曖昧なものなんだ。
喜びの色だけでない、
悲しみだって、真実であれば真実だ。
全部の色が混じっているから、
真実はどんよりした空の色が、似合うんだ。

雨がぽつぽつそのうち言い出すだろう。
雨は電気を乱す気がする。
神経をつないでスパークさせるには、あまりよくない天気だ。
でも、雨だって真実で、
泣きたくなるような感覚だって存在するんだ。
つないで伝えるには、少し複雑だけども。

青く澄み渡った空のような真実。
みんながみんなそうとは限らないさ。
これからやってくる季節、夏の空のような真実。
その季節とは離れた、モグラのような兄弟。
地下はいつもあたたかく、そして涼しく、
空とは離れているように思う。

生き物は不安定で、梅雨空はぼやけていて、
探偵に向いているやらいないやら。
心に何かが積もってきたら、
ダイオードの明滅するあそこに行こう。
気のいい情報屋が、
いつもとかわらず地下にいる。
雨でも風でも嵐でも。
空が真実を映し出していても、
彼は不安定な生き物のまま、いつもどおりだ。

真実は。
やっぱり、知らなくてもいいものまで、あるものだ。
神経探偵は、そんなことを思う。
梅雨空は、例年通りにどんよりと。
安定するもの、しないもの。
明日のことすらわからないけれど、
わからなくて、いいんだ。


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