箱物語(仮)96
海を思い山を思い夏の空を思う。
記録を追うけれど、どうにも暑くていろいろ鈍る。
感覚の遮断も考えないわけではない。
それをすれば、過去の箱に余計な記録が増える。
それに、ルカは感覚を人為的にいじるのが、
記録を入れていじるのが好きではない。
今日も暑い。
待機室はそれなりに空調が整っている。
けれども暑い。
カラットはコーラを飲んでいて、
スーツのジャケットを椅子に引っ掛け、
シャツのボタンもだいぶはずしている。
品がないと注意するものはいない。
品もへったくれもなく暑い。
ヤンはジャケットを椅子にかけて、
冷感布の鉢巻をしている。
ツヅキはさすがにココアもアイスで飲んでいる。
その椅子には、涼をもとめて、
冷たいクッションらしいものが仕込んである。
ルカは、小さな扇風機と、
ヤンを見習って髪をあげてみたり、
バンダナ付けてみたりしている。
眉間にしわを寄せながら、
電子箱とにらめっこをしている。
空調は効いていると言うのに、
なんだか暑くて仕方ない。
電子箱の冷却ファンが少しだけうるさい。
落ちたらやばいなぁとバックアップとっていても思う。
「海いきたいっすねー」
カラットがぼやく。
「高原なんていいと思います」
ツヅキがさらりと返す。
「近場で図書館なんていいと思うな。水族館もいいな」
ヤンが提案する。
男どもが勝手なことを言っているなぁとルカは思う。
まずは涼みたいと思うのはわからないでもないが、
まず夏の空に焼かれるのが嫌だなと思う。
化粧が云々ではなく、行くまでに暑い。
待機室のドアが開き、
「みなさーん」
という、明るい声。
「夏を満喫していますかー」
ルカはぐったりしつつ、視線をシジュウに定める。
シジュウは日焼けもしていないし、
スーツのジャケットすら脱いでいない。
それでも明るし夏満喫を顔から滲ませている。
「さて、みなさん」
シジュウは微笑む。
「夏をさらに満喫するため、どこか行きませんか?」
ルカは、何か嫌な予感がする。
それなりに意見を出し合う男性陣。
海も山も夏の空も。
みんなひっくるめて夏だ。
ルカはぐったりしんどがる。
しんどいのも、生きているから。