箱物語(仮)100


カラットは、中庭を見ていた。
「雪、ふらないっすね」
ぼんやりとつぶやいたそれを、ヤンが聞いていた。
「雪が好きですか?」
「一度雪かきってしたいんすよね」
「ふむ。きっと疲れますよ」
「どのくらい疲れるのかな」
「きっとものすごくですよ」
ヤンは当たり障りなく答えるが、
カラットはいまいち納得しない。
こういうところが少し子供っぽくもある。

カラットは、待機席に戻って、
雪降らしという、
テルテル坊主をさらにおかしくしたようなものを作りにかかる。
ヤンはそれを見て、少し笑う。
そういう心は忘れてきたかもしれない。

電子箱に入れなくても、
どこかに行ってしまうもの。
子供だったころを忘れて、
自分はいったいどこに来てしまったのだろう。
そして、今までを忘れた自分は、
いったい今からどこに行ってしまうのだろう。

雪降らしを窓に引っ掛けて、
カラットは雪を待つ。
おまじないで天気が変わるはずがないことを、
いい年したカラットはわかっている。
それでも、子供っぽいそれを、
ヤンはうらやましく思う。

しかし、雪かきなんて、
疲れるイメージしかないのだが。
カラットくらい元気だと、
それもまた、楽しみになるのだろうか。
カラットは、雪降らしに何やら祈って、
その場を外した。
コーラでも飲む気なのかもしれない。

結局、この待機室にいるのはみんなアンバランスで。
いろんなバランスが崩れている連中なのかもしれない。
それが、やっぱり、
居心地が良かったりするから。
だから、ここから出ていこうとしないのかもしれない。
出ていくことが、すべていいわけじゃないとヤンは思う。
ここにいることで、心地がいいのなら。
それはそれでいいと思う。
自分がどこに行こうとしているのかわからない。
道標もない。
記録に残らない自分たち。
記録を取り締まる自分たち。
ないことにされている自分たち。

どこに行けばいいのだろう。

あるいは。
この雪が降ったら、
何か変わるだろうか。

子供であることをなくして。
冬は近づいてきていて、
雪はなかなか降らない。

木枯らし吹く頃の話。


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