箱物語(仮)102


いつもの待機室。
空調は効いているが、
窓から見える景色は、寒々としたものだった。

どんよりした冬の雲、そして、雪。
粉雪というレベルではない、
牡丹雪とかそういうのが、
次から次へと降ってくる。

「仕事がないといいんだけど」
ルカはぼやく。
「ほんとに。俺の運転でも雪道は嫌です」
ヤンが答える。
ルカは違うことを意味していたのだが、
確かに雪道は危ない。

ルカは窓の近くによっていって、
ぼんやり空を見る。

雪とは気象現象だ。
天使の涙だったり、そういうわけがない。
涙のダダ流れしているところに、
人の記録を捕獲に行く元気はない。
雪でみんな真っ白くなってしまえばいいのに。
記録も全部リセットされればいいのに。
違法記録がなくなったら、
過去の箱がなくなったら。
全部なくなったら。

箱の目もなくなって、
ルカがただのルカになったら。

しあわせかな。

不意にルカは思う。
天使は、幸せを考え始めたから、
涙を流すんじゃないかと。
何が存在して、何が存在しないことが幸せなのか、
天使はその線引きなんてできないから、
だから泣くんだ。

すべてを抱え込んで、
それでも、人と神の間にいるもの、
天使っていうこと。

ルカは窓の外、白い羽が見えた気がした。
見間違いだ、
外は大雪、
天使は号泣している。

ただの気象現象に妄想入れるようになったらおしまい。
ルカは席に戻る。

外は大雪。
それはただの気象現象。


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