箱物語(仮)103


毎年。
2月になると、カラット先輩は考え込むことが増える。
ツヅキはそんな感じがする。

女の子にモテモテになりてー、だとか、
町ゆく女の子でかわいいのを見つけると、うれしそうにするとか、
カラット先輩は女の子というものが、とても好きなんだろう。
ツヅキはそう思う、思うのだが、
カラットから特定の女の子というものの、
お付き合いというのが減ってきているのも事実。
はて、どうしたものかなと、ツヅキは思うわけである。

男相手の同性愛者になったわけでもなく、
女の子がかわいいとか、そういうことはよく言っている。
ただ、お付き合いを聞かない。
それだけなのだけど。

カラットは自分の席で考え事をしている。
咥えているのはポッキーだ。

「どうしました、先輩」
ツヅキは声をかけてみる。
「ツヅキかぁ。お前チョコ何個もらった?」
カラットはおどけてみようとしているが、
ツヅキの感じるところ、明らかに失敗している。
失敗したとカラットが自覚して、
ため息一つ。
「女の子はいいよなぁって思うわけだよ、ツヅキ君。」
「では、お付き合いなりなんなりすればいいのでは?」
「だよなぁ。普通そう思うよな。ツヅキはまだ普通なんだよ」
「普通、ですか」
カラットは目を閉じる。
開き、話し出す。
「記録をいろいろ書き換えて、仕事に特化している俺と」
「はい」
「雑多な記録も持ち合わせて平気でいられる女の子と」
「はい」
「俺が持たなくなるんだ、近すぎると。俺が、人間じゃないように感じて」

ツヅキもその感覚はわかる。
この仕事をしているのは、記録をいじられたどこかまっとうでない人間。
カラットは少しだけ笑った。
「女の子はきれいだから、俺より遠くにいる方がいいんだよ」
「それも悲しく思います」
「いいんだ。なんか、年々普通じゃないと思ってきて、チョコレートが苦い」

カラットはチョコレートをかじる。
カラットを思っている誰かからのチョコレートなのか、
カラットが買ってきたチョコレートなのかはわからない。
けれど。
この仕事をしていると、チョコレートが苦くなる。
甘いものが、甘くしみこんでいたものが、
苦くなっていくのは、止めようがないのかもしれない。


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