箱物語(仮)106


シジュウは、ルカを運転手にして、ドライブに出かけた。
「5月の緑を見に行きましょう!」
という提案だ。
ルカは嫌そうな顔をして見せた。
そんなことで引き下がるシジュウではなく、
ルカは結局ドライブに出る羽目になった。

装備課には寄らず、
展開刀もプレートもなく。
ごく普通のドライブでしかない。
シジュウが助手席でナビをして、
町からはどんどん離れていく。

途中にポツリとあったコンビニで、
飲み物を補充。
車はさらに走る。

丘を一つ越えそうになったところで、
シジュウがストップをかけた。
「そこ、小さな公園なんですよ」
休憩がてら、車を降りる。

緑の匂いの風が、ざぁとふく。

町が小さく見える。
あの道を走ってきたんだろうなとぼんやり思う。
プレートでいないことにされて、戦っている町は、
あんなに小さい。
あんなに遠かったら、箱の目もいらない。
誰のことも見えない。
「小さいでしょう」
「うん」
「いろんなものを見た方がいいですよ」
「はい」
「それが正しいか間違っているかは、また別です」
「別ですか」
「5月の緑がきれいでしょう」
「はい」
「今はそれでいいんです」
シジュウは飲み物に口をつけて、それっきり、黙った。
ルカは、髪を風になびかせたまま、
じっと町を見ている。
小さな町。
5月の緑に、おおわれてしまうんじゃないかと思うほどの、
本当に小さな町。

この風景が何を変えるわけでもない。
けれど、ルカは小さいんだということに改めて気が付く。
神様でもない。
何ができるわけでもない。
小さな町で、
いないことにされて戦っているにすぎない。

それでも肺には5月の風が確かにあったし、
正しいか間違っているかはともかく、
心地よい場所で何かを客観的に見た気がする。

それでいいのかもしれない。

シジュウの狙いはわからないけれど、
ルカは、それでいいと思った。
シジュウを理解したためしなんて、
今まで一度もなかった。
多分これからも、無い。

それでいいのかもしれない。


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