箱物語(仮)107


梅雨空の下。
いつものメンバーが違法記録を追っていた。
箱の目を使って、ルカが過去の箱を追う。
相手は違法記録を詰め込んだ少女のようだ。
漫画のようにひらひらクルリと宙を舞う。
おそらく、それもまた違法記録のたまもので、
それも捕獲しないといけない。

ツヅキは雨の匂いを感じた。
間もなく雨が降る予感。
早く仕事を終えて、
帰らないとプレートつけててもずぶ濡れだ。

少女を見ている人は誰もいない。
プレート的な記録も、少女は入れているのかもしれない。
ツヅキは距離を詰め、縛糸を放つ。
大方よけられたが、一本絡まった。
ツヅキはそこから、違法記録の捕獲に意識を向ける。
まず記録の停止。
ツヅキ自身に容量があるわけでないので、
ヤン先輩が拳箱に入れるまでのつなぎ。

ツヅキは少女の過去の箱に干渉する。
たまにではあるが、相手の記録が流れ込んでくることもある。
帰ってから電子箱に落とせばいいだけの話だけど、
いつになっても、慣れないものだ。

今回も、少女の記録の断片が流れ込んできた。
(ココア飲みたいの)
(ねぇママ、ココアが飲みたいの)
少女は繰り返しココアが飲みたいと訴えた。
ママの記録もパパの記録もなくて、
あるのは、違法記録と、ココアが飲みたいだけの記録。
少女の過去の箱はそれだけで構成されていた。

ツヅキは記録を停止させて、
皆が来るのを待った。
少女は記録が止まって、人形のように倒れている。

雨が、降ってきた。
この少女は記録をクリアにしたとして、
どこに行けば救われるんだろう。

皆がやってきた。
雨は涙のように降る。
それは苦くしょっぱい。


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