箱物語(仮)110


少し風が冷たくなったなと、
ツヅキは思った。

ツヅキは待機室に置く私物、
主にココアと砂糖を買いに行っての帰り道にいた。
待機室には四季の移り変わりは薄い。
いつの間にか時間や季節が過ぎ去って行っている。
外に出て初めて、
季節が変わっていることに気が付く。
仕事であっちこっち現場には出ているけれど、
それはまた仕事であり、
風の温度を感じる余裕などない。

秋になったのかと、ツヅキは思う。
カラット当たりなら、食欲の秋、などと言って何かをほおばりそうだ。
ルカはいつもと同じようにジャスミン茶をすすっているだろうし、
そんな待機室で、ヤンは文庫本を読んでいるかもしれない。
待機室に季節を持ち込むのが好きなのは、
シジュウかもしれない。
今日あたり、秋の何かを持ってきていないだろうか。

ツヅキは落ち葉を踏んだ。
カサカサの落ち葉は、少しばかりさびしい感じがする。
少しばかりあたたかいものがほしい。
それには待機室に戻ってココアを入れよう。
あたたかいのがいい。

ツヅキは少しゆっくり帰り道を歩く。
秋を次に感じることができるのは、
いったいいつになるだろう。
こんなにのんびりと季節をきちんと感じられるのは、
次はいつだろう。
すぐかもしれないし、
もう二度とないかもしれない。
ツヅキも人でありたいから、
もっといろんなことを感じたい。
過去の箱の容量圧迫しない程度で、
いろんなことを感じていたい。

人であることとはなんだろう。
生きれば人か。
記録があれば人か。
簡単なようでいて複雑だ。

風は少しだけ冷たく。
秋風が、ふく。


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