箱物語(仮)111


久しぶりのルカのオフ。
どこか出かけようかと思っていたら、
当日になって台風がやってきた。
出かけるなんて強い風と一緒に吹き飛んだ。

タカハと同居の家に、
雨戸を閉めて、引きこもりの一日となってしまった。
外は強い雨風、
ルカはテレビがあまり好きでないので、
ラジオをつけっぱなしにしている。
タカハは本を読んでいる。
技術向けの本で、
ルカはよくわからない。

ラジオは台風情報と、警戒してくださいのことばかり。
歌もあまり流れない。
面白いおたよりも流れない。
心底つまらないなぁとルカは思った。

つまらない。
本当にそうだろうか。
ルカは自問自答する。
そもそも、いつぶりにつまらないという感覚を持っただろうか。
子供じみた感覚だとルカは思うし、
そんな感覚はどこかに片付けて出てこないものだと思っていた。

台風が感覚をそれなりに乱しているらしい。
ルカは、それならこの時間だけ、子供になってみようと思った。
さて、子供とはどういうものかな。
台風にむやみにわくわくするものかな。
停電にドキドキするものかな。
子供。
ルカが電子箱や何かにしまい忘れた、
子供の感覚。
何かの拍子にそれが出てきたのが、
ルカにとって、なんだかくすぐったい。

「タカハ」
「うん?」
「つまんない」
「そっか、オセロかババヌキでもする?」
「なんかあったっけ?そんなの」
「そうでなければ適当に落書きでもする?」
「子供みたい」
「今のルカは子供みたいだよ」
「そっか」
「決めた、落書きしよう。紙とボールペンでいいか」
タカハはそういうと、筆記用具をとりに席を立った。

ルカの書いた落書きは、
絵心なんてない子供のようなそれだった。

台風が過ぎると、たいてい秋の高い空がやってくる。
台風、困ったものだけど。
こういう時間も悪くない。


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