箱物語(仮)112


いつからだろう。
いつまでだろう。

ルカは、物心ついた時から箱の目を持っていた。
過去の箱を見ることによって、
死期を見ることもできた。
近所の人の死期を当てた時、
気味悪がられ、友人というものがいなくなったなと思う。
友人、親せき、家族に至るまで、
ルカは過去の箱から取り出して電子箱に落とした。
化け物扱い、あるいは、死神扱い。
気持ちの悪いもの、不吉なもの。

ルカはこの仕事を嫌いではない。
ただ、自分の中に残すものが減ったなとは思う。
いないことにされているルカ。
あまり寂しいと思わない。
見えないならそのほうがいい。
人との関わり、友情も愛も、
最低限少しだけ持っていればいい。
ルカの過去の箱の中は、
いつも最低限。
そのほかは電子箱に。

ルカは、先送りしている不安がある。
それは、タカハとのことだ。
ルカは、過去の箱をいじって、
過去の箱を壊さないように、記録をどんどん外に出している。
タカハは、過去の箱をいじっていない。
いずれタカハは過去の箱の寿命で死ぬだろう。
ルカはそれを止められるだろうか。
ルカがタカハの過去の箱に関与して、
寿命を延ばすのは職権乱用だ。
ルカはきっとタカハが死ぬのを見ないといけない。
ルカはそのことをずっと先送りしている。

ルカの周りで、
過去の箱が限界になって死んでいった人間はたくさんいる。
特別な人だけ先に死んでほしくないなんて、
なんて傲慢だろうとルカは思う。
生きる死ぬを操ることも考えるなんて、
それこそ化け物で死神で、異形のものだ。

いつか来ること。
まだ受け入れられない程度には、
ルカは人間だ。


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