箱物語(仮)114


あめあめふれふれ。

ルカの記録に消し忘れた童謡。
こんな童謡が容量食っていては、
ルカの過去の箱によくない。
電子箱に落としておかないと。

ルカは自分の席に座り、
いつものように余計な記録を電子箱に落とす。
なんでこんな記録が紛れ込むのか。
多少イライラしている気がする。

「雨っすねー」
カラットがしゃべっている。
「梅雨が明ければ夏ですよ」
ヤンが答えている。
「どうにも湿度が高くありませんか?」
ツヅキが少しだけだるそうに。
「空調調節するっすよ」
カラットは空調の設定をして、
そのまま席に戻る前に、
ちゃっかりコーラを持ってきて飲んでいる。
「この刺激がたまらないっ」
言った後で軽くげっぷ。

ルカはそんな男連中のやり取りを見て、
少しだけ心が楽になったのを感じる。
ルカからすれば、
無駄だらけの連中に見えないこともない。
それでも、
彼等は彼らなりに、
過去の箱と、楽しむべき無駄記録と、
折り合いをつけて生きている。

そう。生きている。

あめあめふれふれ。

待機室の窓の外は雨。
梅雨が明ければ夏。
恵みの雨だったり大災害だったり。
雨に意識はないのだろうけれど、
どうにも加減を毎年わかっていない気もするし、
自然とはそういうものだろうか。

自然の前には、
過去の箱を追うルカも無力だと思う。
生きること、過去の箱を守ること。
電子箱に落とすこと。
神経質になっても、
その時が来ればルカは多分死ぬ。
普通の人だったかのように。

あめあめふれふれ。

夏を前に、全部流してしまえ。
余計なものを、全部。


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