箱物語(仮)116


涙に価値はあるか。
ツヅキはそんなことを考えた。
涙は宝石じゃないし、
感情からくる塩水に過ぎない。
汗だってそうで、
汗を流しただけの見返りがあるかというと、
相応の見返りなんて、いかがなものか。

ツヅキはドライにはなり切れない。
割り切って考えることも、いまいちできない。
表情にしづらいだけだ。
涼しげな顔をしているなどと、
カラットからも言われる。
涼しげかどうかはともかく、
クールな性分かと言われると、それは無理だ。

涙に価値はあるか。
ツヅキは考える。
そして、
涙よりも、涙を止めることの方が、
価値があるかもしれないと考える。
涙はあまり流したくない。
悲しい涙ならなおさら。
涙を止めるような、その行動の方が価値があるかもしれない。

それにしても。
ツヅキは何年涙を流していないだろうか。
幼いころはよく泣いたはず。
ただ、電子箱に記録を落としていないのに、
幼いころを思い出しにくい。
忘れる、ことなんだろうと思うけれど、
忘れるというのは、過去の箱から消えているのではなく、
深いところに居座っていることなんだと、ルカから聞いた。

ツヅキの深いところ、
記録のツヅキが泣いている。
泣くことを許される幼いツヅキ。
涙は宝石にならない。
涙に価値はない。
けれど、どこかを目指して転んだ幼いツヅキが、
泣きべそかいて痛みを知ったとき、
涙は価値を持ったかもしれない。

その時、涙は。
過去の箱を照らす小さな星になっただろうか。

今でもツヅキの過去の箱の中、
深いところで涙がきらめいている。
そうか、
涙は宝石でなく。
涙は星になったんだ。

ドライにもクールにも、
なり切れないツヅキである。
ツヅキの未来を示すのは、
ツヅキの流した涙の星。
大人になったら涙は隠して、
空の星を見上げるように、
涙がこぼれないように。

なかなか強くはなれないけれど。
それでいいのかもしれない。


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