箱物語(仮)117


秋晴れの高い空。
秋風を楽しむ余裕もなく、
ルカは違法記録を追っていた。

箱の目を使い、展開刀を右手に。
いつものプレートを仕込んで、走る。
後ろにカラットとヤン。
ツヅキは別ルートで追っている。
違法記録のほかにも、
身体能力の記録を入れているかもしれないし、
箱の目を使って、その辺も分析をかける。
瞬発力から察するに、
筋力を無視して走れる能力を入れているかもしれない。
記録を抜いた時には、筋肉がボロボロになるやつだ。

そうまでして欲しい違法記録は何だろう。
ルカには理解できない。
自分を壊してまで、
過去の箱を壊してまで、
自分のものにしたいもの。
ルカには理解できない。

ルカは違法記録保持者の過去の箱に追いつく。
展開刀を突き立て、
「展開!」
宣言し、過去の箱を開く。
あふれる記録達。
ヤンが違法記録を拳箱に捕獲する。

ルカは記録が入ったことを確認し、
過去の箱を閉じる。
そのとき、
「心がほしいと思った人はいないかな?」
それは、記録からルカにダイレクトに語り掛けるもの。
多分、ルカが展開したときに開く記録。
「心がほしいんだよ、みんな、ね」
ルカはその声の主を知っている。

「怪盗アーカイブ…」
「覚えてくれて光栄だね」
「私が追うようにしたの?」
「そう、君なら開けるからね」
「なんで」
「君と幸せになりたくてね」

ルカは思いっきり驚いた。
その間に、怪盗アーカイブの記録は、笑いながら消えた。

ルカはかぶりを振った。
先程追っていた記録保持者は、
思った通り筋肉が使い物にならなくなって、
道端でうめいている。

ルカ達に気が付いた人はいなくて、
いつものように車に戻ろうとする。

ルカと幸せになりたいという怪盗アーカイブ。
悪ふざけにしても度が過ぎるとルカは思った。

秋風は涼しく。
そろそろ隣に誰かがほしい季節。


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