フラミンゴとは


ネジはラプターを腰に戻し、
番人に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
番人は顔をゆがめながら、その身を起こす。
「いててて…」
「人を呼んできますね」
「いや、いい。時間がたてば治る」
「それでも」
「あんたは自分の心配をしろ」
ネジは思い当たる。
トランプが自分たちを追う可能性。
「これでザニ一家ではなく、俺たちを追うことになる」
いつの間にかサイカが来ている。
「できるだけ静かに倒したつもりだが、騒ぎにはなるだろう」
サイカはいつものポーカーフェイスで言い放つ。
あれで静かだというのだから、
サイカが本気を出したら、いったいどうなるのだろう。
「本当に人を呼ばなくて平気ですか?」
「ちょっとは歩ける。治療はそこでしてもらうさ」
番人は立ち上がり、ずるずると歩き出した。
「いきな、旅人さん。大騒ぎになる前に」
「はい」
ネジは車に戻る。
地面にフラミンゴを撃ったときの赤い液体のあとがある。
気にはなったが、とにかく車に乗って、
サイカも乗せて走り出した。

番人が見送る。
マーヤの町の一本だけ通れる大通りを行く。
ほかの通りは狭くて、
車が通るには適さない。
ネジは心持アクセルを踏み気味にする。
「多分通信が行くはずだ」
サイカがつぶやく。
「通信?」
「新聞師から中央へ」
「今度こそ俺たちが追われるわけか」
「そういうことだ」
しばらく沈黙。
車はマーヤの町の端っこまでやってくる。
こちらも崖がそびえたっていて、
壁のようになっている。
扉がひとつ。
ここから峠に行くのだろう。
番人はいるが、眠っている。
サイカが車を降りて、青い歯車をいじる。
扉は重い音を立てて開いた。
「あ、うん?」
寝ぼけた番人がきょろきょろする。
「扉閉めておいてくださいね」
サイカが戻ってきて、
ネジは一言声をかけると、
アクセルを踏んでマーヤの町を出た。

霧の森が戻ってくる。
「サイカぁ…」
「なんだ」
「フラミンゴって、いったいなんだったんだ?」
サイカは話し出す。
「フラミンゴはトランプの使う一般的な武器だ」
「どう使うの?」
「フラミンゴとトランプの相性にもよるが、殴る、斬る、突くなどがある」
ネジはふんふんとうなずく。
「フラミンゴは登録武器だ」
サイカが説明してくれる。
「登録召喚と同じで、命が武器になっている」
「あれは、命」
「無理やり形を変えられた、罪人の末路だ」
「あれは罪人?」
「そう、腐るか、命を道具にされるか。罪人はそんな道をたどる」
「俺…」
ネジは思い出す。
武器だからとためらいなくフラミンゴを撃ったが、
あれは命だったのか。
「あれは涙にもならないの?」
「ならない。崩れて終わりだ」
「あれは、命」
「命だ、でも、武器だ。弔ってやれるならそれがいい」
「サイカぁ…」
「お前は悪いことをしていない、俺が保障する」
ネジは唇をかみ締める。
「何度だって保障する。お前は悪くない」

車は走る。
深い森の中の一本の道を。
霧はずいぶん晴れた。
燃料も、積んである分を考えれば余裕がある。
マーヤの町からだいぶ走ってきた。
通信はいっただろうか。
多分中央から追っ手がかかる。
あせりはあまりないが、
ネジはラプターを武器として使いたくはないと思った。
銃は大戦時代は正真正銘武器だった。
殺すための道具だった。
サイカがそんなことを言っていた。
でも、ネジはできれば殺したくはない。
よくわからないけれど、
無理やり命を崩したくないような、そんな感じだ。

「もうすぐ見えてくる」
サイカが言う。
「なにが?」
「グラス越えの転送院だ」
「てんそういん?」
「結構大きな建物だ。車も転送する」
「そんなに大掛かりなの?」
「昔は軍隊を送っていたからな、名残で大きい」
「ふぅん…」

車は森の中を走る。
しばらく走ると、なにやら奇妙な建物が見えてきた。


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