号外丸


ネジとサイカは、町に出る。
適当な場所で朝飯を取る。
新鮮な魚を売りにしたメニューが目立ち、
ためしに頼んでみたら、予想以上にうまい。
「物は試しだね」
ネジが魚を食べながら話す。
「食べるか話すか、どちらかにしろ」
「うん」
ネジはもぐもぐと食べて嚥下する。
「おいしいってことが言いたいんだ」
「わかった」
ネジがむしゃむしゃ食べている間に、
サイカも食事をして、済ませてコーヒーまで飲んでいる。

「それでさ」
食べ終わったネジが切り出す。
「なんだ」
「俺たち旅をしているわけだよね」
「そうだ」
「旅費はどこから出てるの?」
眼鏡をかけていないサイカが少し驚いたらしい。
「いまさら気になったのか」
「気になるものはなるんだもん」
サイカはため息をつく。
「俺のポケットマネーだ」
「使っていたらなくならない?」
「世界を三十周できるくらいの貯金はある」
「うそ」
「うそだ」
「…えー」
ネジは脱力する。
「まぁ、気にすることはない」
「気になるよ」
「大丈夫だ。いろいろあって貯金はあるのは事実だ」
「いろいろって?」
「いろいろだ」
サイカははぐらかした。
コーヒーをうまそうに飲む。
優雅なそのさまは、若い超一流執事そのものだ。
ネジは憮然とする。
貯金があって安心はしたけど、
過去にサイカが何をしていたかが、今度は気になる。
そういえばハリーが何か言ってなかっただろうか。
「ボルテックス?」
サイカの片眉が上がる。
「ハリーが言ってたよね、ボルテックス」
「それがどうした」
「うーん…」
ネジは考える。
「サイカの違う名前?」
「まぁ、そんなところかもしれないな」
当たっていたけど何もわからない。
やっぱりはぐらかされた。
ネジはハリーの話をして、もうひとつ思い出したことを話す。
「昨日の夜、ハリーが部屋に来たよ」
「ほう」
「何か盗むとか言ってた」
「何をだ?」
「ええとね…」
ネジが思い出そうと考えていると、
不意に食堂の外が騒がしくなった。
「号外だよ!号外だよ!」
外からそんな声が聞こえる。
ネジとサイカは、朝飯代を払って外に出た。

人々が上を見ている。
上から、何かがばら撒かれている。
「号外だよ!号外だよ!」
目を凝らすと、小さく翼を持ったものが、
軽いものを撒いているのまではわかった。
ネジは手近な人に声をかけた。
「なんです?あれ」
「この町の号外丸という小型翼機だよ」
「ごうがいまる?」
「ここの新聞師の持ち物でね、号外が出ると空から撒いてくれるのさ」
ふわふわと潮風に乗って、
号外がはらはら落ちてくる。
ネジは一枚手に取る。
「怪盗ハリー・ホワイトローズ、大型翼機グリフォンを狙う!」
大きな見出しを読む。
サイカにも見せる。
サイカはよく見えないようだ。
目を何度も瞬かせる。
「これを盗むってことらしいよ」
「そうか」
「興味ない?」
「ない…ふむ」
サイカは号外新聞の、別のところが気になったらしい。
「これは水に溶ける紙か」
「へぇ、そうなんだ」
「物理召喚師だ、そのくらいはわかる」
「サイカは何級なの?」
「どうでもいいことだ」
サイカは号外をぽいと投げる。
「ごみは捨てちゃだめだよ」
「いずれ海に全部とける。一時的な号外にはちょうどいい」
「なるほどねー」
ネジは納得する。
号外は潮風に乗って、
どこかに飛んでいった。

「それじゃ、眼鏡屋さんを探そうか」
「頼む。看板すら読めなくて難儀している」
「手をつなぐ?」
「いや、それはやめておこう」
「何で、サイカ見えないんでしょ?」
「それとこれとは別だ」
「ふーん、なら俺にちゃんとついてきてね」
サイカは盛大にため息をつく。
ネジは看板を見ながら歩き出した。
サイカが困ったような顔をしながら、後に続いた。


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