輝鉱石


ネジはゆっくり車を走らせる。
光鉱石で少しだけ明るいが、
基本的に町は暗い。
町を行きかう人々は、
ライトをつけた車が珍しいのか、たいてい振り返る。
鉱石掘りで鍛えているのか、
屈強な男が何かを担いでいくのが見える。
ライトの端から町の人が走っていく。
ネジはブレーキをかけて止まる。
止まったそこに、子ども達が駆け寄ってくる。
「ねぇねぇ、なんていうの、これ」
「鉱石安いよ、買っていってよ」
「中央の人?お話聞かせてよ」
「光鉱石じゃないのに、どうして光るの?」
車の外が、がやがやと騒がしくなる。
「おいこらチビども!」
野太い声がかかる。
チビどもと言われた子どもたちは、
それこそ蜘蛛の子を散らすように闇の中へ逃げていった。
「まったく、珍しいものを見るとこれだ」
野太い声が愚痴る。
サイカが窓を開ける。
「この町のものか?」
「おうよ」
「宿を探している」
「へぇ、宿ってことは観光かい?」
「旅人というほうが合っている」
「そうかぁ、まぁ、ドットの町に観光ってこともないな」
ネジはそっと野太い声の主を見る。
屈強なおじさん。
声のイメージそのままの男がそこにいた。
「するってぇと、あんたらは中央から来たのかい?」
「いや、どこということもない」
「根無し草の風来坊か。おもしろいな、あんたら」
おじさんは屈託なく笑った。
そして、宿の場所と、食堂、雑貨屋の場所を教えてくれた。
サイカが礼を言う。
おじさんは、
「いいってことよ、俺はこれからもう一仕事さ。じゃあな」
と、言い残して颯爽と去っていった。
足音がどすどすとなりそうだなとネジは思った。

宿の近くに車をとめる。
そして、ツインの部屋を取る。
今度は満室ということはなかった。
部屋に入って、
ネジはとりあえずベッドにごろんと横になる。
コットンの香りが心地いい。
「見ろ」
サイカが指差す。
ネジはその指の先を見る。
照明代わりに、石が置かれている。
ぽわんと光っている。
「これが例の?」
「そうだな、光鉱石だ」
ネジは鉱石をじっと見る。
太陽とも違った、やさしい明かりになっている。
ずっと夜のままのグラスの光源。
このグラスの闇が優しく感じられるのは、
こんな光を宿しているからかなと思った。
「グラスシオンではわりとよく取れる鉱石だという」
「盗んでく人いないのかな」
「噂で聞いた限りだが」
「うん?」
「転送に当たって分解すると聞いたことがある」
「あらら」
それじゃよそのグラスに持っていけないなとネジは考える。
だから、よそのグラスでは光鉱石は高いのだろう。
「なるほどなぁ…」
ネジは一人で納得する。
「光鉱石のランクが上がったものに、輝鉱石というものがある」
「きこうせき?」
「歯車の原材料だ」
「喜びの?」
「そうだ」
サイカがうなずく。
ネジはベッドに腰掛けなおす。
「輝鉱石を精製して、歯車を作る」
「ふむふむ」
「グラスシオンがなければ、喜びの歯車はなかった」
「そうなんだ」
「だから、中央はグラスシオンを特別扱いしている」
「よくしてるの?」
「そうだと聞くが、大戦の元凶があるからかもしれないな」
大戦の元凶。
中央がグラスシオンの鉱石を求めて戦争を仕掛けたという。
他のグラスも巻き込んだ。
中央の罪滅ぼしだろうか。
ネジはなんとなくではあるが、
中央が何か計算しているように思われた。
たとえば、歯車を作るために利用しているとか。
そんな感じのことを。
仮定してから思う。
喜びの歯車はそんなに大事なものだろうか。
「サイカぁ」
「どうした」
「喜びの歯車って大事?」
「市民にいきわたっているからな。なければ生活が動かない」
「命と引き換えにするほどかな」
「皆、生活をよくして喜ぶことに一生懸命だ」
喜ぶことに一生懸命?
ネジは違和感を覚えたが、
今まで見てきた町の人が、
みんな喜んでいたなと、同時に思った。

喜ぶために?
喜びの歯車で喜ぶための生活?
考えて、ネジはなんだか変だなと思った。


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