助ける意味


ネジはいろいろ言いたいことがあった。
けど、それも大量の爆薬というスケールには無意味かもしれない。
一体どれだけの爆薬を召喚したのか。
中は崩れていないだろうか。
おばさんの探していた、うちの人は大丈夫だろうか。
光鉱石のランタンを持った男達が、
次々、開いた穴から入っていく。
「連れて行くんだろう」
サイカがネジに向かって言う。
「うん、とにかく探そう」
言いたいことは後回し。
つられたランタンをひとつ失敬して、
ネジは暗い坑道に足を踏み入れた。

「おおーい」
という男達の声が共鳴している。
どこから鳴っているのか、わからない。
わんわんわんと響いている。
ネジはゆっくり慎重に進む。
光鉱石のランタンが頼りだ。
中は崩れが少ないようだが、
落盤の起きたあとで爆発まであった。
サイカも無茶をすると思うが、
中が崩れていないことを見越しての無茶かもしれない。
計算していたのだろうか。

「だれかー!」
と、大声が響いた。
「手を貸してくれー!」
奥のほうだとネジは判断した。
響いている方向を間違えないように走る。
間違えそうになると、サイカが導いてくれた。
奥のほう、光鉱石で照らすと、崩れている岩盤の下、
男の上半身が出ている。
左腕にいばらの刺青。
ヒゲ面で屈強。間違いない。

すでにたどり着いていた男達が、
応援を求めて叫びつつ、
岩盤から男を掘り出そうとあがいている。
下半身はしっかり埋まってしまっている。
「俺は、もういいから」
刺青の男が弱々しく言う。
「俺の脚はもうだめなんだ、わかるから」
助けに来た男達は、意図的に無視して岩盤を掘る。
「だめなんだよ、なぁ、聞いてくれよ」
ネジは歩み寄る。
半身が埋まった男のもとへ。
「帰りましょう」
「どこへ、だよ」
「奥さんが待っています」
「へっ、女房は俺のことなんか待っちゃいねぇよ」
「待っています。そして、連れて帰ると約束しました」
「俺は見ての通りだよ。もう、だめなんだ」
「だめじゃないです、あきらめないでください」
「あきらめたくもなるだろうよ!」
ネジは言葉を無視して、
男のそばを手で掘り出す。
屈強な男達に比べれば微々たる力だ。
「俺はもうだめなんだよ」
「だめになったあとで言ってください」
ネジは必死に岩をどかそうとする。
ラプターがゆれる。

「おい」
「はい」
「あんたは聖職者さんかい?」
「はい」
ネジは答えるが、岩をどかすことしか頭にない。
「だったらさ、俺を弔ってくれよ」
刺青の男が笑う。
ネジは手を止める。
「それ、銃だろ?俺を弔ってくれよ」
ネジはラプターに手をやる。
「そうだよ、俺を弔って楽にしてくれよ」

ネジはラプターを抜く。
「サイカ」
成り行きを見ているサイカに声をかける。
「なんだ?」
「できるかな」
「どうなっても知らんぞ」
「うん」
ネジはラプターを構える。
刺青の男が微笑む。

ネジの内側で透明の歯車が回る。
狂ったようにぐるぐると。
ネジはそれを苦しいと思う。
でも、それはネジだけの痛みだから。
これは、苦しみから解放するためだから。
やらなきゃとネジは思う。

ネジはラプターの引き金を引く。
ネジのイメージが放たれる。
痛みによく似た感情が、
刺青の男の、真上の岩盤に着弾する。

岩は瞬時に涙に変わる。

ざぁ…と、岩だった涙が流れる。
ネジはラプターを腰につるす。
「あんた…」
「帰りましょう。奥さんが待っています」
ネジは男に宣言する。
「あんたは一体…」
「通りすがりの旅人です」
ネジが刺青の男を担ごうとしたが、
救助に来ていた屈強な男がその役目を買って出た。
男達に担がれ、
足が不自由になった、刺青の男が助け出される。
「俺は…」
「生き抜いてください」
ネジは刺青の男にそう言葉をかけた。

男はうなずき、入り口に向けて担がれていった。


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