生体管理師


坑道から出てくると、
光鉱石の群れが見えた。
「おおーい!」
誰かが呼んでいる。
「大丈夫だったかー!」
「足がやられている!生体管理師を頼む!」
「わかった!」
光鉱石の群れが動き出す。
刺青の男を楽に運ぼうと手を貸すもの、
生体管理師というものを呼びに行くもの。
ネジが聞いたことのない職業だが、
怪我とか治してくれるのだろうか。
「サイカぁ」
「なんだ」
「せいたいかんりし?」
「生きているものを管理する能力を持っている」
「管理なの?治すんじゃないの?」
「三級もあれば、あの程度の怪我は治せる」
「すごいなぁ」
「大戦前の医者というものに似た職業と思えばいい」
「医者」
ネジはなんとなくそれを覚えている。
時代遅れかもしれないが、
なんとなく覚えている。
なんでだろう。

ネジたちは町を目指す。
ドットの町は大騒ぎだ。
「話は後だ!とにかくおっさんを落ち着かせてくれ!」
担いでいた男が怒鳴る。
がやがやと道が開けて、
多分刺青の男の家へと、彼らは歩く。
ネジとサイカもそっと続く。
小さな家の前に、あのときのおばさんがいた。
「あんたぁ」
おばさんは顔をゆがめている。
なんともいえない顔。
喜ぶべきか、苦しむのか、わからない顔。
「たでぇま」
刺青の男は、照れくさそうに、苦痛に顔をゆがめながら言う。
おばさんは何度もうなずいた。
「おかえり、あんた」
おばさんはようやく微笑んだ。
「さぁ、ベッドに寝かしつけてやってくれ」
「生体管理師さんは、まだか」
「呼びに行った」
声が飛び交っている中、
刺青の男が家に入っていく。
おばさんと何か言葉を交し合っている。
おばさんが促されるように、ネジに視線を向けた。
ネジはちょっとお辞儀をする。
おばさんは満面の笑みでうなずいた。

「生体管理師がきたぞ!」
誰かが声をかける。
がやがやした人ごみに、道がすっと割れる。
ネジとサイカも退く。
そこを、白いローブに身を包んだ、ひょろっとした男が通っていく。
ネジはその白い衣装をどこかで見た気がする。
何でそんなことを思うんだろう。
ネジは疑問に思ったが、
とにかくこの人が生体管理師らしい。
「こっちです」
誰かが道を案内する。
生体管理師がうなずいて、続く。
ネジとサイカの前を通り過ぎて、
生体管理師は刺青の男の家へと入っていった。
「これで一安心だ」
「よかったなぁ」
「この町に生体管理師がいて、ほんとによかったよ」

暗い街に、人々が安心して散っていく。
ネジは光鉱石のランタンを持ったままなことに気がつく。
「これ、どうすればいいかな」
「一応坑道に戻しておくべきか」
「そうだね、ちょっと行こうか」
ネジは光鉱石のランタンをかざして歩き出す。
一体今は時間でいうと、いつ頃なんだろうか。
昼なのやら夜なのやら。
グラスシオンはずっと夜なのでわからない。
てくてく歩いて2番坑道の近くへやってくる。
サイカがあけた大穴の近くに、
ランタンを持った男達がたたずんでいた。
どの男の影も、筋骨隆々で屈強そうに見えた。
「一体誰だよ、こんな大穴空けたの」
男の影が何か言っている。
「何でも、赤い光がして、突然だって話だ」
「赤い光?」
「それから、岩盤が溶けたって話も聞いたぜ」
「なんだよそれ」
「とにかく、ものすごいことがおきたんだよ」
「俺達だけじゃ、どうしようもなかっただろうな」
「まぁ、何はともあれ感謝だな」
ネジは一通りはなしを立ち聞きすると、
ランタンをつるしなおして、
そっとその場を後にした。

「言わないのか?」
立ち去るネジの後から、サイカが問う。
「言わない。ただの旅人のほうが楽だよ」
「それもそうだな」
サイカが先にたつ。
「見ろ、誰か来た」
ネジは遠くを見る。
誰かが光鉱石を持ってやってくる。
「おっさん助かりましたよ!三日後には復帰できるそうです!」
歓声が上がる中を、
ネジとサイカはそっと去った。


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