ハートのクイーン
「世界の中心?」
ネジはたずねる。
「そうなんです。世界を束ねているんです」
新聞師は答える。
「今まで旅していたけど聞かなかったなぁ」
「当然の情報ですから、改めて話す人もいなかったのかも」
「そうかぁ」
ネジはサイカのほうを見る。
「何で教えてくれなかったんだよ」
「知らなくても旅はできた」
「そうだけどさぁ…」
ネジは食い下がろうとするが、
何を言っていいものか、わからない。
現にここまで旅ができていた。
「常識を教えてくれたっていいじゃないか」
「それなら、今、教わればいい」
「わかったよ」
ネジはため息をつく。
「中断させちゃってごめん、それで世界の中心なんだっけ?」
「はい、世界をまとめているのが、ハートのクイーンなんです」
「具体的にどういうことをしているのかな?」
「基本は政ですね」
「まつりごと」
「声を聞いて、法を整備しています」
「声を?」
「新聞に載らない、新聞師からの情報なんかも見ているみたいです」
「ふむふむ」
「それらを見て、法律を整備したり、あとは役人を登録したりしてますね」
「トランプですか?」
「そうですね、トランプの実質トップですからね」
「なるほどなぁ」
ネジはネジなりに納得する。
「それで、歯車はどこの担当?」
「喜びの歯車の担当は、シロウサギがトップですね」
「そうなんだ」
「システム担当が、シロウサギだと聞いたことがあります」
「ふぅん」
「ですから、シロウサギのトビラさんは、歯車の仕組みを伝えて守っていると」
「ふむふむ」
「クイーンもトビラさんも、なくてはならない存在なんです」
「なるほどなぁ」
「でも、権力のトップはクイーンということになっています」
「ふむふむ」
「聖職者のトップもクイーンですよ」
「あらら」
当然、ネジははじめて聞いた。
聖職者みたいなことをしているのに、
トップが誰かも知らなかったわけだ。
「弔いの銃弾ってあるじゃないですか」
「はい、ありますね」
「あれを発行しているのが、クイーン名義なんです」
「ふむ」
「よほどのことがない限り、複数の銃弾が使われることがないんですよ」
「なるほどなぁ」
「ですから、そうそう簡単に生きた人が弔われることはないんです」
「ですよね」
「だから、坑道で起きたことは、死神の仕業なんていわれていますね」
「死神の」
「でなければ、クイーンの知らないところで、弔われているか、ですね」
「わからないですね」
ネジはとぼけてみる。
とぼけたのは、有効にでたらしい。
「やっぱりわからないですよね。一体何があったんでしょうね」
「死神が出たんじゃないですか?」
「結局生かしているじゃないですか。そんな不手際の死神ってないですよ」
「そんなものですか?」
「そういうものだと思いますけどね」
言いながら、新聞師は立ち上がる。
「それじゃ、俺は取材に戻ります」
「ご苦労様です」
「旅人さんはどうなされますか?」
「宿に戻って新聞読みますよ」
「そうですか、じゃ、行ってきます」
「はい」
新聞師は取材に飛び出していき、
ネジとサイカは宿へと戻る道の上につく。
「クイーンだってさ」
ネジがつぶやく。
「そうだな」
先にたっているサイカが答える。
「本当に世界の中心なのかな」
「何か疑問でもあるか?」
「トビラのほうが偉い気がする」
「そうか」
サイカはそれ以上何も言わないで歩く。
ネジはちょっと不満だ。
「サイカは何か知ってるの?」
「さぁな」
いつものようにはぐらかされる。
「テルスを飲むんだろう。冷やしたほうが、うまいといわれなかったか?」
「あー、話聞いていたら…」
生あたたかくなったテルスが、ネジの手の中にある。
「冷やしながら新聞でも読めばいい」
「うん、そうする」
サイカはすたすたと、
ネジはてくてくと歩く。
いつもの距離が心地よかった。