シオンの朝


一通り髪を乾かして、
ネジは朝食を取ろうと提案する。
サイカが、ごっこ遊びといっていた、食事。
人間ごっこ。
ネジはひどい言葉だと思っていたが、
もしかしたらとも思う。
ネジは普通の人間でない可能性。
そして、もうひとつ思う。
サイカはゆっくりと、ネジに真実を教えてくれている可能性。
一度に教えてもショックが大きいとか、
そういう可能性。
だから、ネジがなじむまで、
人間ごっこしてくれている可能性。
いっぱい可能性はある。
ついでにもひとつ。
サイカが人間でない可能性。
サイカは何でも知っている、何かの仕組みだとか。
そこまでつらつらネジは考えて、結論。
悪魔と死神も悪くないかも。

食堂のメニューを見て、
朝から…グラスシオンはずっと夜だけども、
メニューに肉が多い。
「軽くていいのになぁ」
と、ネジはぼやく。
「いつでも鉱石が掘れるように、昼夜問わずエネルギーなんだろう」
「なるほどなぁ」
それでも朝から肉というのもなんだし、
軽くサンドイッチのセットを頼んでみる。
サイカはコーヒーだけを注文した。
「食べないの?」
「多分、注文しなくてもいい」
「ふぅん?」
程なくして、おおよそ二人分のサンドイッチが運ばれる。
「これ、二人分ですか?」
「いや、一人分だよ」
ネジは絶句する。
「これくらい食べられなくちゃ、元気でないよ」
運んできた恰幅のいいおばさんが、笑う。
ネジはサイカのほうを見る。
「まぁ、こういうことだろうと思った」
「…一緒に食べてくれる?」
「わかった」
二人でサンドイッチを分け合って、
ネジはこれもいいかなと思う。

「それで、今日はどうする?」
ネジはたずねる。
「グラスシオンの墓場に行く」
「墓場?」
「予想が正しければ、見れるものがあるはずだ」
「ふぅん?」
サイカはネジに何か見せたいらしい。
それは墓場にあるらしい。
「サイカぁ」
「どうした」
「弔うときは、時計を世界に帰すんだよね」
「そうだ」
「時計を埋める場所があればいいんだよね」
「そうだ」
「墓場?」
「そう、大戦時代の名残だ」
「だから、弔われていないの?」
「グラスシオンは中央に逆らい続けた」
「うん」
「まとめて殺されたこともあった」
まとめて。
ネジは不意に、人を物のように感じた。
大戦とはそういうものなのだろうか。
罪人の命を道具にするというのは、その名残だろうか。
「誰が間違っているかなんてわからないが」
「うん」
「命が失われたところを、そこにあるものを、見せたい」
「そっか」
ネジには想像つかない、何かがあるんだろう。
素敵なものとは限らない。
つらい気持ちになるものも、あるかもしれない。
サイカはまとめて教えてくれようとしている。
ならばちゃんと記憶しなくちゃ。

食堂を出て、町を歩き、
雑貨屋で一応、光鉱石のカンテラを買う。
安いが、よそのグラスに持っていこうとすると、光鉱石は消えてしまうらしい。
「お客さん、観光かい?」
幾度となくきかれた言葉。
「ちょっと暗いところに行くので」
「なら、貸すってことにしてやるよ。割り引いてやるから、あとで返しにおいで」
「あ、いいんですか?」
「荷物が増えるのもなんだろ、よそに行ったら光がなくなるしな」
「いろいろすみません」
雑貨屋のおじいさんは、くしゃっと笑った。

宿の近くにとめた車は、
相変わらずそこにある。
ネジとサイカは乗り込み、エンジンをかける。
前のグラスで整備をされていて、
調子よくエンジンが動く。
「それじゃ、ナビお願い、サイカ」
「ああ」
ネジはアクセルをゆっくり踏む。
小さな黄色い車が進みだす。
ライトも忘れずにつける。
大通りは徐行。
人がひっきりなしに行きかっている。
そして、町外れに来たら速度を上げる。
「こっちでいい?」
「ああ、この道だ」
暗いグラスシオンに、車のライトが光る。


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