静けさの墓場


町から離れて、
暗い道をひた走る。
障害物は少ないみたいだが、
ライトで照らし出される限定された視界は、
どうも頼りない気がする。
退屈でもあるし、
朝だというのに、かなり暗い。
「サイカぁ」
「この道でいい」
「うん」
サイカと会話をしても、続かない。
音楽でもかけられれば違うかなと思うけれど、
そんなものが、この車にあるだろうか。
とりあえず記憶にはない。

時間の感覚はわからないが、
しばらく走っていて、
不意にサイカが、
「そろそろ着く」
とだけ言った。
ネジは外をじっと見る。
山の中のような感じがする。
岩肌が露呈した山の中。
そこに、矢印だけの看板がひとつ。
左折するように促している。
「あれかな」
「そうらしい」
短く会話して、ネジはハンドルをゆっくり切る。
車のライトが、でこぼこの道を照らす。
とにかく石がたくさん落ちている。
小さな車は、がたがたと揺れる。
「なんでこんなに、うわっ」
ハンドルが取られそうになる。
ネジはあわててしがみつく。
「鉱石を取っていた痕跡だ」
「墓場で鉱石?」
ネジはますますわけがわからない。
やがて、石の道がおさまり、
運転する道も緩やかになった。
右手に大きな岩の山っぽいのがある気がする。
左手のほうは、何か機械のような仕組みのようなものが見える。
どうもライトではわかりにくい。
「もういいだろう。このあたりで止まれ」
「うん」
ネジはわけがわからないなりに止まる。
エンジンを止めてライトを消す。
あたりは何も音がなく、
怖いくらい、暗闇だ。
トランクからカンテラを出し、
光鉱石を確認する。
ネジはほのかな明かりが照らす、そこを見る。
風の音だけした。
誰もいない。
機械っぽいと思ったそれも動いていない。
そして、反対側の岩の山のようなもの。
「やま?」
ネジはカンテラを動かす。
岩肌に、手がある。
ネジはぎょっとする。
「な、な、」
ネジはあわてる。
「サイカ、これ…」
聞こうとしたサイカがいない。
ネジはおろおろとする。
「こっちだ」
少し先からサイカの声がする。
ネジはあわてて後を追った。

「サイカ、さっき」
ネジはさっきのことを話そうとする。
岩肌に手があったこと。
でも、岩の形の見間違いかもしれない。
そう思うと、なんだかばかばかしくなった。
「さっき、なんだ?」
「なんでもない。見間違いだと思う」
「そうか」
サイカはすたすた歩く。
そして、山のほうの道を歩き出す。
「何があるの?」
「行けばわかる」
ネジはなんだか、うれしいとか喜ぶものがあるとは思えなかった。
でも、サイカはそれを見せたいという。
少しずつ岩山を登っていく。
そこは何かが通っていたかのように、なだらかな道だ。
ネジはランタンを動かす。
機械の止まっているのが、かすかにある。
「わかるか?」
「何が?」
「ドットの町と同じ仕組みだ」
「ふぅん?」
ネジにはよくわからない。
じゃあここは、鉱石の町だったのだろうか。
「このあたりなら見えるだろう」
サイカがそういって、立ち止まった。
ネジもサイカの近くで立ち止まった。
ぐるりとあたりを見る。

そこに広がっていたのは、
岩山の山肌一面の星。
さまざまの色の星が輝いている。
風がなでていって、瞬くように、呼吸するように。
それは静かに輝いている。

「ここが墓場だ」
サイカは宣言する。
「墓場」
ネジも繰り返す。
「この岩山は、人を積んでできたものだ」
サイカは何事もないように言う。
人を積んで。
物のように。
「殺して、積んで、そうして山になった」
「じゃあ、あの光は」
「輝鉱石だ」
「ええと…」
「歯車の材料だ」
「うん」
「人の中に時計があり、その成分は世界の歯車と一緒だ」
「じゃあ…」
「死んで積まれた者の、時計の名残だ」

これほどまでに輝いている、時計の名残。
風がなでていき、輝きが瞬いた。


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