岩を弔う
どれほどの人が積まれれば、
こんなに大きな山になるんだろう。
どれほどの時計があれば、
こんなに美しい輝鉱石の群れになるんだろう。
「大戦前から」
サイカが話し出す。
大戦前から、
グラスシオンは高価な鉱石などの採掘で潤っていた。
一発当ててやろうといったものもいたらしい。
中央は、その権利を奪おうとした。
その頃から、歯車システムの原案があったのかもしれない。
歯車を作るには、
輝鉱石が大量に必要だ。
グラスシオンは、大金を吹っかけたと聞く。
輝鉱石はグラスシオンでしか取れないからな。
こじれた挙句に戦争が始まった。
それが大戦のきっかけだ。
そして、中央は容赦なく、
グラスシオンの一般人を殺した。
軍人兵士を殺しただけでは、この山はできない。
この町を滅ぼして、さらに死体を積み上げて、
輝鉱石を奪っていった。
死体は腐ることもできず、弔われることもなく、
グラスシオンの摂理がそうであるように、
岩に帰っていった。
近隣の鉱山から、
どんどん死体が運び込まれた。
そして、積まれていった。
中央は無人になった町から、
高価な鉱石をどんどん奪っていったと聞く。
「皮肉なものだな」
サイカは眼前の輝鉱石の星を見る。
「中央があんなに欲していた輝鉱石が、今はこんなにある」
「中央はそれからどうしたの?」
「奪うだけ奪って、歯車を作り、これからは人道に外れてはいけないと説いた」
ネジは黙った。
ひどいじゃないかと。
中央の歯車のおかげで、
みんな喜んでいる。
平和だ。
その裏はこんなにひどいなんて、
ネジは想像もしていなかった。
「覚えているか?」
「何を?」
「岩盤を涙にしたことだ」
「うん、そのときはできるかどうか不安だったけど、無生物も涙に…」
ネジははっとする。
「そうだ」
サイカも気がつく。
「グラスシオンの岩は、基本的に人がなる。弔われていない」
「だから涙になったんだ…」
ネジはそっとラプターに触れる。
ネジの内側の痛みに似た感情を、放つ銃。
「みんな、弔われなくて、物になっちゃったんだ」
ネジはとても苦しいと思った。
これは悲しみかもしれない。
よくわからないけれど、これも悲しみかもしれない。
ネジはラプターを腰から抜く。
サイカは黙っている。
「俺の自己満足だけどさ」
ネジはラプターを構える。
きらきら輝く岩山に向かって。
「自己満足だけど、聖職者としてあるべきことをしたいんだ」
カンテラで少しだけ照らされたサイカが、うなずいた気がした。
ネジの内側で、透明の歯車が回転する。
狂ったように。
ネジはこの透明の歯車を、
ずっと前から知っている気がする。
ネジの一部だけど、違うかもしれないもの。
痛みのような苦しみのような、
そして、涙のような。
そんな感情が渦を巻く。
感情の名前も忘れてしまったけれど、
これは、なくちゃいけないものだ。
「さよなら」
ネジはラプターの引き金を引く。
感情のイメージが、ラプターから放たれる。
岩山に着弾する。
そこは墓場だ。
輝鉱石の輝く、苦しい思いを抱いて死んでいったものの、
墓場だ。
着弾したそこから、
どんどん岩山にひびが入っていく。
ネジは構えだけ解く。
じっと墓場だったそこを見る。
ころころ…
ころころころ…
ひびはどんどん墓場を侵食していく。
岩が転げてきては、涙に変わる。
そして、あちこちで涙の破裂が起きる。
岩がどんどん涙になって、そこかしこで爆発する。
山になるほど物にされた人が、
こうして世界の流れに帰っていく。
輝鉱石の星が、ひときわ明るく輝く。
墓場が崩れる。
暗い中、音を小さく立てて、
見上げるほどだった岩山が、見る見る涙に変わっていく。
(ありがとう)
ネジはそんな声を聞いた気がした。