光の天使


ネジはラプターを腰に戻す。
岩山がなくなっていく。
涙の小さい爆発を繰り返している。
ネジの放った銃弾が、
こうして岩山を消した。
救われただろうか。
ネジはそんなことを思う。
中央に殺されたという、この、岩の人たちは、
救われただろうかと思う。
ネジは中央にいいイメージを持っていない。
サイカがそういう情報を選んでいるのかもしれない。
でも、サイカを疑えないし、
ネジはいろんなものを見てきた。
「見ろ」
「うん?」
岩山の消えた一角を、サイカは指差す。
そこには、輝鉱石がたまっていた。
元は時計だから、埋めるのが筋なのかもしれない。
時計の、歯車の形をなくしてしまった輝鉱石は、
ゆっくりと輝きが沈んでいっているようだ。
地に吸い込まれているようだ。
「ああして、輝鉱石もグラスシオンに帰れた」
「そっか…」
「その銃は救いであり、武器でもある」
サイカが語る。
「一発で何かが変わるかもしれない」
「うん、それは感じてる」
「悔いのない使い方をしろ」
「わかった」
ネジはそっとラプターをなでる。
ネジのイメージを撃ち出す物。
サイカと違う意味での相棒。

「戻るか」
「うん」
二人は車に戻る。
カンテラで照らされた道は暗い。
車のライトでも視界が限定されているのだから、
グラスシオンの闇は、深いのかもしれない。
カンテラをトランクに積むと、
車に乗り、エンジンをかける。
ライトをつけて、方向を変えて、来た道を戻ろうとする。
一瞬、視界が昼間のように明るくなる。
目がくらむほどのまぶしさ。
ネジはブレーキを踏んで、
光に耐える。
ネジは光の中に、
ニィの姿を見る。
ニィがたくさんの人を導いている。
ニィはネジのほうを見た。
ネジの目はまだ慣れないけれど、あれはニィだ。
ニィはネジに向かってうなずいた。
そして、光の中へ帰ろうとする。
「待って」
ネジはどうにかそれだけ言えたが、
気がつくと光はなくなっていた。
そこにあるのは深い闇。
グラスシオンの常闇。
ネジは助手席のサイカを見る。
目がどうにも慣れてくれないが、
サイカが頭を振っている。
「鉱石が反応したか?」
「ニィがいたよ」
「ニィ…そういうことか」
「そういうこと?」
「世界に帰ってなお、形を持っている存在だ」
「かたちを?」
「大戦前では、天使なんていうのがあったな」
「てんし」
ネジはそれを知っているような、いないような気がする。
でも、天使はとてもニィにぴったりしていると思った。

車を運転して、
ドットの町まで帰ってくる。
ちょっとした騒動が起こっていた。
また落盤かと思ったが、
どうもそれとは勝手が違うようだ。
とりあえず町の人が、険しい顔をしてはいないようだと、感じた。
ネジはとりあえず雑貨屋の近くに車をとめる。
約束どおり、カンテラを返しに行く。
「貸してくださって、ありがとうございます。助かりました」
ネジはカンテラを雑貨屋のおじいさんに渡す。
おじいさんはちょっとだけ点検して、うなずいた。
「しかし、どこに行ってたんだい」
「あー、ちょっとした野暮用です」
「そうかい。でも、あんたらが出かけてから、大騒ぎだよ」
「何かあったんですか?」
「立ち入り禁止地区から、すごい光があったんだよ」
「立ち入り禁止地区?」
「なんでも大戦の危ないものがあるってね」
「それで、光、ですか?」
「輝鉱石でもあの光は出ないよ。強烈で、やさしい光だったよ」
おじいさんはうんうんうなずく。
「見ていたらね、大戦のひどいこととか、全部洗われた気がしたよ」
「そうですか」
「今まで大戦って言えば、みんな忌むべきことだったけどさ」
「うん」
「なんか、ちょっと洗われた気がするよ」
ネジはうなずいた。
多分それでいいのだ。

車を宿の近くにとめる。
「救い、か」
サイカがつぶやく。
「俺は救えるかな」
ネジが車のエンジンを止めながら言う。
「多分お前が思う以上に、救えるさ」
サイカは根拠を言わなかったが、ネジはそれでよかった。


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