深い眠り


グラスシオンはいつも夜のようだが、
時間的に、よそのグラスの夜の頃。
ネジとサイカはシャワーを浴びて、寝ることにした。
音楽は切られ、
遠くのほうで採掘をしているような音が、ほんのかすか、聞こえる。
そういう町なのだろう。
ネジは空腹感は感じない。
いよいよ死神になってきたのかな、とも思う。
ネジはもぐりこんだベッドで寝返りを打つ。
シャワーも浴びたし、やることも大してない。
荷物はサイカがまとめた。
ネジがやると散らかってしまうらしい。
不満を言おうと思ったが、
実際そうなので言えない。

光鉱石の明かりに覆いをかぶせて、
部屋は少し暗くなる。
ネジはサイカの気配を感じる。
隣のベッドで横になっている。
サイカは、悪魔なんだろうか。
大戦の赤い悪魔。
物理召喚をする、召喚師。
でも、何級なのかは聞いたことがない。
サイカのことは、何も知らないままだなとネジは思う。

トビラはぜんまいを巻き戻すという。
逆回転といっていたかな。
だから、大戦前から生きている。
サイカもそうなんだろうかと、ネジはなんとなく思う。
サイカも、大戦前から生きているのだろうか。
だからなんだろう、と、ネジは思う。
サイカがずっと生きていても、
結局サイカはサイカだ。
あまり変わらない。
でも、いろんな思いをしてきただろうなと思う。
サイカがぜんまいを逆にできるとしても、
できないとしても、
サイカはたくさんのことを学んできた。
それをネジに伝えている。
(サイカ)
ネジは心で呼びかける。
(いつもそばにいるよ)

ネジはそのまま眠りに落ちていく。

すっと落ちる感覚。
いくつもドアを開けたような感じになる。
何だろう、この感覚。
そして、不意に落ちるのと上がるのが一緒くたになる。
いつもの場所だ。
鍵言葉がないとここまで入れない場所だ。
「また来ちゃったな」
多分ネジはここで何かしないといけない。
けれど、どうしていいかよくわからない。
ぐるっとあたりを見る。
遠くに、壁が立っているのが見える。
あれの向こうに、いる。
ネジはそれだけ思う。
彼女だ。
そして、また、別の方向を見る。
ドールハウスのような建物。
キュウがいるはずだ。
まずはネジは壁のほうへ行く。
近づくと、壁はどんどん大きくなる。
そして、上の果ても見えない壁となって姿を現す。
ネジは、そっと壁に手を置く。
壁は沈黙を守っている。
沈黙ですべてを拒絶している。
耳を澄ましても、何も響かない。
(いますか?)
ネジは心から問いかける。
かすかに、ステップの音が聞こえた気がするが、
それはネジの空耳かもしれない。

ネジはキュウのドールハウスへ向かう。
歩くと、壁が遠ざかる。
いつの間にか、キュウのドールハウスの周りに、
森が現れている。
明るい森だ。
物語のようなとネジは思ったが、
そもそもあまり物語を知らない。
ネジはふわふわと歩く。
そして、ドールハウスまでたどり着く。
ドアをノック。
「はーい」
キュウの明るい声がする。
ドアが開く。
「ネジ、また来てくれたのね」
「はい」
「森、見てくれた?」
「ええ、びっくりしました」
「トビラが作ってくれたのよ。あたしがこの世界にいられるように」
「トビラ?」
「トビラはこの世界にいろいろなことができるのよ」
「すごいんですね」
キュウはにっこり笑った。
「トビラはあたしの誇りよ」
ネジもなんだかそれでいいような気がしたが、
どこかで、トビラを許せていないような感覚を持つ。
夢のネジは、よく思い出せない。
キュウがネジを見て、首をかしげた。
「悩んでいるの?」
ネジはうなずいた。
「悩んだ果てに答えがあるものよ」
キュウは諭す。
「悩んで悩んで、悩みぬきなさい。悩まないと真実は見えないから」
ネジはその言葉をどこかで聞いた気がする。
キュウはにっこり笑って見せる。
「お茶を入れるわ。ハリーもいなくて退屈してたの」


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