暗い道


ドットの町を後にして、
車は街道に乗る。
ネジの少ない記憶だと、
ひとつのグラスはそんなに広くない。
多分グラスシオンもそんなに広くないし、
どこかに転送院があるのだろう。
山道らしいところを走る。
石の気配が少しだけ、タイヤから伝わってくる。
こつこつと小石がはねる。
なだらかなわけではない。
けれど、邪魔するものはなく、見通しは確保されている。
ことこといいながら、車は走る。

暗くてネジは目を凝らす。
「まだ先だ」
サイカが言う。
「町に寄らないから、ずいぶん走るぞ」
「そうなんだ」
「いけるか?」
「愚問」
ネジは強がってみる。
けれど、集中力が途切れたら、
グラスシオンでは、大きな事故につながりそうだ。
想像してネジはヒヤッとした。
そうなる前に、交代とか考えたほうがいいかもしれない。
サイカが運転できるかは、実はネジは知らない。
知らないけれど、サイカなら何でもできそうな気がしている。

ネジはライトの照らすあたりと、照らさない辺りをじっと見て運転する。
岩肌が見えたり、崖が見えたり。
明るかったらいいのになぁとは思う。
じっと見ているネジの目に、
ライト以外のもの。
遠くかもしれない。
「あれは?」
ネジは視線を変えないで、問う。
「もう見えるのか。転送院だ」
「ああ、かがり火たいてるんだっけ」
「そうだ、見えるけれども、それなりに距離はある」
「わかった」
ネジは了解する。
目的地がひとつ見えるだけでも、
気持ちはちょっと違う。
暗い中を走っていたから、余計不安だったのかもしれない。

かがり火を遠くに、
転送院への道をたどる。
道がやけに広いなとネジは不意に思った。
山道ではそんなでもなかったのに。
「道が広いね」
ネジは思ったそれをつぶやいてみる。
「中央が攻めてきたときに、広くしたんだろう」
「ああ…」
そうかとネジは思う。
中央は転送院をたどって、この道を作って、
たくさん人を殺してきた…らしい。
ネジは伝え聞いただけでわからないけれど、
この道は、中央が戦争のために広げたのかもしれない。
それじゃ、ここから町も近いし、転送院もそろそろなのだろう。
広い道を走る。
看板と、右と左に道。
「左だ」
サイカが確認する。
ネジもライトで照らされたそれを確認して、ハンドルを切った。

広いなだらかな道を走る。
ネジは不意に、軍隊の気配を感じた気がした。
そんなものは見えないし、あるはずない。
過去ならあったかもしれない。
転送院の転送で、くたびれた兵士が歩いている幻。
何人も何人も。
ネジはブレーキを踏む。
その瞬間、幻は消える。
頭を振った。
あの人たちは、大戦が終わったら罪人にされた。
そんなイメージがついて回る。
戦って、殺して、殺されて、
何がどうなって大戦なんか起こしたんだよ。
「疲れたか?」
「あと少しだよ」
「無理するな」
「してないよ」
「大戦の兵士も、無理をしていないと言い張った」
ネジはサイカのほうを見る。
サイカはじっと前を見ている。
「同じことはしなくていい。お前はお前だ」
ネジは見えている口元を、笑みにした。
「大丈夫だよ」
大戦の幻が過ぎ去って行った気がする。
ネジは幻にかける言葉も見つからないまま、
また、アクセルを踏んだ。

やがて、転送院にたどり着いた。
磁器色の転送院を、
かがり火が照らしている。
赤にも見えるし、白にも見える。
青にも見える。
その中間の不思議な色合いをしている。
車で中に乗り入れ、
アーチをくぐり、
転送所の陣の中へと止まる。
黄色いローブを着た、転送師がやってくる。
先端が輝く杖を持っているのも、一緒だ。
年齢がわかりにくいのも、一緒だ。
「どこまで?」
転送師が問う。
「中央まで」
ネジは決意を持って答えた。


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