雨の町


陣から出て、アーチをくぐり、
転送院を出る。
外に出ると、いつものように、かがり火がたかれているが、
視界が悪くなった。
「雨」
ネジはつぶやいた。
しとしととではあるが、少しだけ雨が降っている。
ネジはワイパーのスイッチを入れた。
いくつか前のグラスで点検がされているので、
ワイパーの調子もいいようだ。
それなりの視界が確保される。
「中央は雨であることが多い」
サイカがつぶやく。
「そうなんだ」
ネジは当然初耳だ。
「雨音は無意識に作用すると聞く」
「へぇ」
ネジは感心する。
サイカは何でも知っているなぁと思う。
「と、今考えた」
サイカはさらりと言ってのける。
「え」
「前を見ろ」
「あ、はい」
ネジはあわてて前に視線を戻す。
これはなんだろう、サイカなりの冗談だったのかもしれない。
でも、雨音は何かに作用する気がする。
そのうち学者さんが証明するかもしれないなどと、
ネジは思った。

道は真っ黒になっている。
「真っ黒だね」
「アスファルトというものだ。舗装しているというんだ」
「今までそんなのなかったね」
「使っているのは中央くらいだ」
「ふぅん…」
小さな黄色い車は、アスファルトの道を走る。
ぬれていて真っ黒だなとネジは思う。
アスファルトで舗装されたという道のそばには、
灰色の建物が並んでいる。
個性がないなとネジは思った。
看板があるのに、家かもしれないのに、
なんだろう、無機質と感じた。
雨は建物にも降り、灰色の建物にすじを残している。
「転送院から町が近いんだね」
「中央は、大きな都市と思えばいい」
「都市。大きいんだね」
「外側から、低い階級のものがあてがわれて、同心円状になっている」
ネジはなんとなくイメージする。
外側から、大きな円、中くらいの円、小さな円。
「というと、真ん中が一番偉いの?」
「ああ、中央が一番偉い」
「ふぅん…」
中央の中央、そこに、いろいろな仕組みの真ん中がある。
偉くないとは入れないんだろうなと、なんとなく思う。
「ここはどういうところ?」
「低い階級とされている。他のグラスから流れ着いたものがいるな」
「俺達みたいに?」
「さぁな」
「この建物は?その人たちが作ったの?」
「労働者と呼ばれる階級が、作ったものだ。それを流用していると聞く」
「労働って低いの?」
「労働がないと上は飢える。わかっていない上が使った言葉の名残だ」
「なんだかよくわかんない」
「中央はそういうところだ」
建物とアスファルトが続く道を、車は走る。
ネジが目指すところは中央の中央だと勝手に思っているけれど、
この分だと、一般人だと思っているネジとかは、入れないんだろうなと思う。
「宿とかあるかな」
「ここを抜けていけば、労働者階級、その次に商業者階級の町がある」
「いくつか抜けるんだね」
「そうだ。そして、ゲートの審査がそのつど必要になる」
「ゲート?」
「まぁ、問題はない。中央の罪人が引っかかるところだ」
「俺たち追われてるよ?」
「任せておけ」
サイカは静かに言い切る。
任せてみようかとネジは思う。

雨はまだ降り続いている。
道はほぼまっすぐ。
タイヤもスリップしないし、
ワイパーも問題ない。
しばらく退屈な道を行くと、
ひときわ、明るいのが見えた。
「あれがゲートだ」
サイカが言う。
道が意図してちょっとでこぼこしていて、
速度を下げる。
光をピカピカして、合図をしている人がいる。
「はーい!ちょっと止まってね」
ちょっと大きな声がする。
青い服を着た大柄な男が、ゲートから出てきた。
「すまないね、一応ゲートなんだ。変なのが中に入らないためのね」
「いえ、かまいません」
「身元証明になるものがあると助かるんだけど」
ネジはおたおたする。
そんなもの持っていない。
「スキャナを出してくれ」
助手席からサイカがそう言った。
ネジは何事かわからないが、サイカは小さくうなずいて見せた。


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