スキャン


青い服を着た大柄の男が、ゲートの近くの建物に行く。
スキャナとやらを取りにいくのかもしれない。
とにかく待つしかないかとネジは思う。
サイカが何か考えているのかもしれない。

待つ少しの間、
車に人が何人もよってきた。
「いい女の子いるよ」
「なぁ、ちょっと乗せていってくれないか?」
「ちょっと買ってほしいものがあるんだ」
しとしと降る雨をものともせず、
売り込み売り込み。
ここから出たいらしいもの、
奇怪なものを売り込むもの。
ネジはとりあえず無視をする。
サイカもじっとしている。
やがて、大柄の男が戻ってきた。
手には、鉄板のようなのがある。
「こら!お前ら!」
男が怒鳴ると、よってきたものは、
こそこそと恥ずかしそうに散っていった。
「やぁすまない。あいつらも生活するため必死なんだよ」
ネジは曖昧にうなずく。
「それで、スキャナは?」
サイカが声をかける。
「ああ、持って来た。どっちからスキャンする?」
「俺からでいいか?」
サイカが白い手袋を脱ぐ。
左手だ。
「じゃ、スキャナに乗せてくれ」
サイカが鉄板…スキャナに左手を乗せる。
かちっかちかち。
なにやらスキャナから音がする
パチンパチンと音がして、
何かの紙みたいなのが出てくる。
「へぇ、二級熱量召喚師さんでしたか。それは失礼しました」
男はスキャナから紙を取ると、
なにやらぐるぐると書く。
「とりあえずここは通します」
「そうか」
サイカは無表情で手袋をまたはめる。
「スキャン記録にサインをお願いします」
「ふむ」
サイカはサインをしたらしい。
男はうなずいている。
「これで、研究者階級まで入れるはずです。ゲートではスキャン用紙を示してください」
「わかった」
サイカは無表情だ。
「あの…」
ネジが恐る恐るたずねる。
「ああ、あなたは結構です。二級も取れれば、たいていのことは大丈夫です」
ネジは釈然としないが、通れるならよしとしておこう。
「行くぞ」
サイカが短く言う。
男は走ってゲートまで行くと、なにやらいじった。
やっぱり歯車だろうか。
ゲートはゆっくり開いた。
ネジはアクセルを踏んで、ゆっくり走り出した。

ゲートがある程度過ぎ去ってから、
ネジは疑問をぶつけることにした。
「二級熱量召喚師?」
ネジの記憶とぜんぜん違う。
サイカは物理召喚師ではなかったか。
「左手はダミーだ」
サイカは何事もないように言う。
「以前からスキャン対策として、左手の記録を書き換えてある」
「かきかえて?」
「本来の記録は、右手だ」
「右手が物理召喚?」
「そうだ、本来の力はそっちにある」
「熱量召喚もできるの?」
「やってできないことはない。左は利き腕でないから、二級までだな」
「利き腕ならどうなるの?」
「まぁ、それなりだ」
ネジはため息をついた。
サイカのそれなりは時々とんでもない。
無表情とか、そうでなければ機嫌の悪そうなサイカは、
内側にとんでもないものを隠し持っている感じだ。

労働者階級の町を、車は走る。
やっぱりアスファルトに覆われていて、
道はまっすぐで退屈だ。
「サイカは中央の人だったの?」
ネジはふと思いついて、たずねる。
「なぜそう思う」
「スキャンなんて、中央でしかやってないみたいだから」
「そうだな」
「それ対策しているってことは、中央の人かなって」
「あながち間違っていない」
サイカはそう言い、
ネジはうなずく。

「鍵言葉」
ネジは不意にそんなことを思い出した。
どこかに行くためには、鍵言葉が必要じゃなかったっけ。
「鍵言葉か」
「うん、なんだか思い出した」
「鍵は内側に持っているものだ」
「ふぅん?」
「鍵言葉まで持っているのは、中央でも限られた奴だ」

ネジは思い出そうとする。
鍵言葉は、一体何なのだろう。


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